すでにお読みいただいたように、「ごあいさつその1」にシンプソンのことを書いてしまったので、まずはこの本から参りましょう。
写真のバージョンは、1976年のペーパーバック(初版)。76年ならばそんなに古くない。そうはやとちりしてはいけない。
序文を読めば、シンプソンがいかに並々ならぬ思いでこの本を書き、いかに長い歳月を費やしたかすぐにわかるはず。
シンプソンは、この本1冊に、なんと43年を捧げているのだ!ということは、彼は1930年代から、ペンギンに関心があったということになる。
この研究キャリアは、実はハンパではない。上田の世代の「ペンギン研究のリーダー」といえば、世界ではイギリスのバーナード・ストーンハウス、日本では青柳昌宏だった。しかし、序文でシンプソンはこんな具合にストーンハウスを評し、そして自分自身の本について語っている。
「ペンギン偏愛者の多くは、動物園や本からおのれの欲するものを得てきた。そういった類の本の著者は、小さな女の子が聞きたがる古めかしいペンギン像を強調してきた。しかし、女の子が本当に知りたがっていることと、ペンギンの真実とは、応々にしてかなりかけ離れた内容であることが多い。この事実が、本当の優れた書き手を躊躇させてきたのだ。あのペンギン研究の偉大な権威バーナード・ストーンハウスでさえ、少女の要望に応えられるような本を書くのに、10年以上ためらったという。私は、ペンギンに40年以上関わってきた。しかし、これまでペンギンについて何も書いてこなかったのは、私自身の生物に対する尽きせぬ好奇心(ペンギンだけでなく)のためであって、決して少女の要求に臆したためではない。この本は、小さな女の子向けの本ではない。とはいえ、彼女達が読みたいと望めばその限りではないが。この本は、ペンギンについてそれほど詳しく知る必要のない大人のための本であり、知りたいと望んでもいない大人のための本ではない。」
この自信の程はどうだ!私は、この序文数行で、シンプソンに参ってしまった。
いやいや、誤解のないように言いますが、シンプソンは決して「ペンギン好きの女の子」をバカにしている訳ではないのですよ。彼のこの表現を正しく理解するためには、この1970年代までに、いかに多くの「ペンギン本」が書かれ、多くの読者、熱狂的なファン(それをシンプソンは「ペンギン偏愛者」と呼ぶ)を、それらの本が獲得していたか。表現を変えると、ペンギンが本という媒体を通じて、いかに欧米の読書人の心を捉え、夢中にさせていたか。そういう一種の「ペンギンブーム」が、20世紀後半の欧米を包み込んでいた事情を、正しく理解する必要がある。
そこで、このシンプソンを最初の一冊として、しばらく、「ベイシック・クラシクス」というテーマで、19世紀後半〜20世紀(1980年代くらい)の「著名かつ重要なペンギン本」を紹介していくことにしよう。
ただし、それは膨大な作業になる。時々は、息抜き的、あるいは発作的に、「ベイシック・クラシクス」の流れを中断して、全く別の「ペンギン本」も紹介していくつもりです。
さて、このシンプソンの本は、要するに「ペンギンの自然誌の現代的形式」を確立したのだ。ゴタゴタした「旅行記」的要素や、お説教的要素、昔話や偉人伝的要素、写真集との折衷的要素をキッパリ排除し、決別した最初の科学的啓蒙書、解説書である。
確かに、ジョン・スパークスとトニー・ソーパーによる『Penguins』(1967年)はすでに出ていたが、この初版は、まだ古い形式を残したものだった。実際、青柳と私が1989年に訳出したのは、その新版=1987年版である。
もう1つ、シンプソンに私が傾倒する理由がある。それは、彼がペンギン=18種説をとっていることだ。原著の102ページと103ページに挟まれた図版には、2ページにわたる18種の頭部図がある。この分類法は、ストーンハウスも採用し、1980年代まで一般的だった。
話は多少脱線するが、あの幻の雑誌、『ペンギン・クエスチョン』(1983年創刊)の「創刊第2号」にも、47ページにシンプソンの図を元に描かれた18種のペンギン頭部図が紹介されている。ちなみに、『ペンギン・クエスチョン』については、また、稿を改めて紹介しよう。
さて、シンプソンに私がこだわる理由がおわかりいただけただろうか?
では、また、次の「ベイシック・クラシクス」をお楽しみに。
お世話様です。ペンギンのめり込みの歴史、重みを感じます。ちなみに私が買った最初のペンギン本は青柳さんの南極からの手紙です。もともと魚屋なので、魚系の本はそれこそ500冊くらいはあるでしょうね。特に分類系は。
penguinman様。私がかつて、『The Penguin』の中で、「園館資料館をつくるべきだ」と書いたのを、覚えていらっしゃいますか?動物園・水族館に関する総合的資料館です。日本や世界には、これだけ多数の園館があるのですから、その歴史や関係資料を、後世の人々に広く活用していただくためには、そういう専門施設が是非とも必要だと考えています。そういう施設ができたら、私の蔵書を全てまとめて寄贈するのですが……。
ですよね!!!信頼できる施設でないと、心配ですね・・・。
penguinman様。園館資料館については、「テレビチャンピオン」のMさんに、相談してみましょうか?