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『動物園の文化史:ひとと動物の5000年』(溝井裕一著、勉誠出版、2014年4月24日発行)は西洋文化史を専門とする歴史研究者がまとめた「ひとと自然の関係史」です(^○^)!!

2014 年 5 月 27 日 火曜日

これまでにも何回か触れて参りましたが、動物園や水族館については、様々な立場の方々からの「意見表明」がたくさん必要だと考えております。動物園・水族館のスタッフとして長年活躍された方々の手記や「思い出の記」も、もちろん大切な史料です。また、施設を設置した国や地方自治体がまとめた「50年史」や「百年史」といった公的出版物も重要です。

さらに、この「業界」を生涯の生活の糧としているプロの方々が次々に出される「ガイドブック」。著名な写真家の手による「写真集」も増えていますね。

あるいは、全国的に有名になり「社会的成功をおさめた実例」として動物園が紹介されることもあります。その名声にあやかるように、一時は「○○動物園」をタイトルに織り込んだ出版物が爆発的に出現したこともあります。その余波はまだ大きな書店の書棚に残っていて、「動物園・水族館」関連の本の幅が25年前までには考えられなかったほど拡大しています。

この活況は、園館ファンにとっては嬉しい限りですが…、一方で常に「物足りなさ」を感じていたのも事実です。それは、動物園や水族館を真正面から見つめ直し、しかも資料的価値を持ち、基本文献として長い風雪と批判に耐える本格的専門文献が意外に少ないという事実です。

最近数年間に出版された「良書」は、可能な限りこの場でもご紹介して参りましたが、この『動物園の文化史』も、そんな本格的基礎文献だと考えています。本書の冒頭「動物園の世界にようこそ」に記されていますように、本書の目的は「たんに西洋の自然観を批判したり、いまの動物園の存在そのものに疑問を投げかけたりすることが、筆者の意図するところではまったくない、ということである」という点にあります。そして大切なのは、「むしろこの本は、動物園をとおして、西洋を中心に、ひとと自然の関係史をつむぐことを目的としている」ことが重要です。

著者は、1979年生まれの文学博士。ドイツ民間伝承研究、西洋文化史、ひとと動物の関係史の専門家です。巻末にまとめられた「動物園」に関する外国語文献のラインナップは、既存の文献に不足していた「内外の先行文献・研究に関する基本的吟味の作業」が着実になされていることの証です。このような配慮があって初めて、同時代の研究者による「文献内容の確認」が可能となり、史料の共有が保証されると同時に、後進の若い研究者が育つ土壌ができるからです。

ただ、1つ気になる点をあげれば、しばしば指摘してきました通り、1980年代を中心に欧米や日本の動物園や水族館、あるいは企業や研究施設などの動物飼育・動物利用施設を主なターゲットとして吹き荒れた「アニマルライツ」や「ズーチェック」の運動が、その基本的事実関係も含めて歴史的検証と評価の対象となっていない点です。

ひとと自然、ひとと動物、ひとと生物一般の歴史や価値観の変遷を考えていく時、現代のこととはいえ、一時代を画したといえる地球規模での「意識変革」を生んだ1980年代のムーブメントを無視してよいとは思えません。その事実に、可能な限り誠実に向かい合うことから見えてくるものは決して小さくないはずです。

これ以降の文献は、その問題を含むより総合的な評価を試みて欲しい。私自身も、常にその課題を意識しつつ、ひとと動物の関係について考えていきたいと決意しております。

『動物園の文化史:ひとと動物の5000年』(溝井裕一著、勉誠出版、2014年4月24日発行)は西洋文化史を専門とする歴史研究者がまとめた「ひとと自然の関係史」です(^○^)!! 『動物園の文化史:ひとと動物の5000年』(溝井裕一著、勉誠出版、2014年4月24日発行)は西洋文化史を専門とする歴史研究者がまとめた「ひとと自然の関係史」です(^○^)!!

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