チリ中央部で計画されている大規模な鉱山開発事業が地元の自然環境と経済に与える影響について

2021 年 11 月 3 日 水曜日

10月中旬から、一部海外メディアによって報じられ始め、11月初めには日本語による報道も出始めた「チリのフンボルトペンギン」に関係する動きについて、考えてみたいと思います。

チリのほぼ中央部、南緯29度付近の沿岸には、フンボルト群島と呼ばれる8つの島が点在しています。フンボルト群島には、絶滅が心配されているフンボルトペンギンをはじめ、アシカやクジラなど多くの貴重な野生動物が生息しており、8島のうち3島は国立自然保護区に指定されています。

例えば、フンボルトペンギンについて見ると、チャナラル島、ダマス島、チョロス島、チュングンゴ島、ティルゴ島、パハロス島には、26,000羽ほどの繁殖個体がいると言われています。専門家によって多少推計値が異なりますが、現在、チリとペルーには総計およそ40,000羽前後のフンボルトペンギンの成鳥がいると考えられています。従って、フンボルト群島にはフンボルトペンギン全体の70%弱の成鳥が集中していることになります。一部外国報道では「フンボルトペンギンの80%がいる」と伝えられていますが、それは少し大き過ぎる推計値だと思われます。

とはいえ、このフンボルト群島は「世界で最も重要なフンボルトペンギンの繁殖地」だという事実に間違いはありません。

さて、このフンボルト群島から30キロメートルほど離れたチリの太平洋岸で、巨大な露天掘り鉱山=ドミンガ鉱山の開発プロジェクトが進められているのです。鉄鉱石を中心に、チリ特産の銅鉱石を含めた鉱物資源を、2ヵ所同時に開発しようというわけです。現存するラ・ヒグエラという町の近くに、鉱石の積出港を新たに建設する計画も進行中。主体となっているチリの開発企業「Andes Iron」によれば、開発費は総額25億ドル(約2,800億円)、建設事業では9,800人、開業後は1,400人の新たな雇用を創出できると主張しているようです。

しかし、各種報道によれば、この地域の環境に詳しい研究者も、地元プンタ・デ・チョロスの住民の多くも、この鉱山開発プロジェクト=「ドミンガ・プロジェクト」には納得できていないようです。地元の漁師(三代目)で、潜水漁をしているエリアス・バレーラさん(26)も、「私たちが持つ豊かさは物質的なものではなく、島々の間を自由に行き来できることにあるのだと思います。・・ドミンガプロジェクトは、先祖代々伝わる私たちの文化、先住民チャンゴ(Chango)の文化を破壊するものです。この地域で1万年にわたって環境と調和し、持続可能な形で生き残ってきた文化をです」・・と訴えています。

もし、このまま開発プロジェクトが進めば、確かに多くの雇用が創出され、チリ経済の新たな収入源が増え、鉄鉱石や銅鉱石を渇望している経済大国から歓迎されるに違いありません。しかし、バレーラさんが懸念する「伝統文化の破壊」だけでなく、以下(1~3)のような危険=リスクも大幅に増大する可能性があります。

1、鉱山開発によって大量に排出される鉱山排水の問題。水質・海洋汚染の原因となります。

2、沿岸部での大規模な鉱石積出港建設による海洋汚染、沿岸流の変化による生態系への影響。1による海洋汚染と重なれば、希少な海洋生物だけでなく、地元漁民の漁業権を侵害することになります。

3、鉱石運搬船や各種資材運搬船の航行が急増することによって「重油流出事故」、「油不法投棄」発生の危険性が増大すること。これは、漁業で生計を立てている人々にとっては致命的な打撃となります。さらに、フンボルトペンギンの主要な繁殖地付近での重大事故は、種の存続に関わる大きなリスクとなります。

このブログで既にお伝えした通り、2023年にはチリで「第11回国際ペンギン会議」が開催される予定です。その時、この「ドミンガプロジェクト」がどうなっているのか?今後の展開によっては、ひょっとすると、世界的な注目を集めるトピックになっているかもしれません。また、大きな動きがありましたら、ご報告して参ります。

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