今月2冊目の新刊です。本書のタイトルは『南極のアデリーペンギン:世界で最初のペンギン観察日誌』(青土社)、原著者はジョージ・マレー・レビック、本論の翻訳は夏目大さんが担当、上田は解説部分の翻訳と執筆を担当しました。
本書に関する詳細や購入情報につきましては、下記の公式ホームページをご覧下さい。
http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3818
「本論」部分は、1914年にイギリスで出版された『ANTARCTIC PENGUINS : A Study of their Social Habits』George Murray Levick, London, William Heinemann の全訳です。添付した写真は、上田が所有しているその初版本で、140ページあります。
原著者のレビックは、いわゆる「テラ・ノヴァ号による英国南極探検隊」の一員で、世界最大のアデリーペンギンの繁殖地として知られるアデア岬で、アデリーペンギン等の繁殖生態を初めて詳細に記録・研究した人物です。110年ほど昔の話です。
本論部分には、レビック自身が撮影した75点の写真が添えられていて、アデリーペンギン等の行動が生き生きと表現されています。110年以上前ですから、デジタルでもフィルムでもなく「ガラス乾板」を用いたモノクロ写真です。激しく動くペンギンたちを当時の技術でどのように撮影したのか?その苦労を想像しながら楽しむこともできます。
本論には、アデリーペンギンの繁殖生態が丁寧に解説されていますので、それだけでも楽しい読み物です。ただし、本書にはもう1つ別のテーマがあります。それは、アデリーペンギンの性的行動を巡る研究者達の葛藤です。あるいは、「現代ペンギン研究史」の一面といってもよいでしょう。
この第二のテーマは「あまくないペンギン物語」です。「かわいいお話」ではありません。そういう意味では「大人むき」かもしれません。
もう1つ。本書は、既に刊行されている『南極探検とペンギン:忘れられた英雄とペンギンたちの知られざる生態』(ロイド・スペンサー・デイヴィス著、夏目大訳、青土社、2021)、『ペンギンもつらいよ』(ロイド・スペンサー・デイヴィス著、上田一生・沼田美穂子訳・解説、青土社、2022)の「姉妹編」ともいえる1冊です。前者は、レビックの研究結果に衝撃を受けた現代ペンギン学のリーダー的存在=デイヴィス博士による「レビック遍歴」の記録です。後者は、ペンギンの性的行動を含む新しい「ペンギン像」を提唱するデイヴィス博士の代表作です。
ぜひ、これらの2冊と共にお読み下さい。