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読みやすく、分かりやすい園館論とは、何か?

2011 年 3 月 2 日 水曜日

いろいろなシガラミがあって、なかなか言いにくいこと、って、ありますよね!?(~_~;)

私の場合も、この世界(動物園や水族館)にドップリ浸かってしまったので…、昔のようにチャラチャラものが言えなくなりました。
今から23年前くらいには、ある動物園スタッフから、こんなことを吐き捨てるように言われたこともあったんですよ(~_~;)。

「ウエダ?ああ…、アオヤナギって人と一緒になって、『ペンギンで食べてる人』ネ!!」

今でもそうですが、ペンギンでは「メシは食え」ませんって!!
ペンギンでご飯が食べられるなんてのは…、たぶん、日本では、あの有名な高額納税イラストレーター、ただお一人ではないでしょうか?
大学や研究機関にお勤めの研究者の皆さんだって、ペンギンだけで生活できてる方は、いらっしゃらないはずです。

当時も今も、また青柳先生も私も、高校に勤めていたからこそ、全く金にならないペンギンのことに時間が割けたんです。
しかも、かつては、青柳先生も私も、園館に対して、結構辛辣かつストレートにいろいろなことを言っていましたから。
それでは、悪口を言われこそすれ、誰かからお金をもらえる訳はありません。

だから、ひょっとしたら、「青柳と上田はアンチ・ズーだから、園館でデカイ面はさせないぞ!」という意味もあったのかもしれませんね。

でもね…、誤解のないように断っておきますが、私を動物園のペンギンスタッフに正式に引き合わせて下さったのが、青柳先生なんです。
最初の相手は、上野動物園の降籏さんでした。青柳先生のご紹介があったからこそ、降籏さんは初対面の私を信用して下さったのだ、と思います。

さらに言えば、1989年の冬、東京動物園協会から依頼されて私が企画した上野動物園での「ペンギン連続講演」に、青柳先生を講師としてお招きした時も、先生は園館の役割と可能性について、非常に高く評価されていました。
だから、青柳先生も私も、園館の理解者として、真っ当に園館を批判していたに過ぎません。
つまり、今(1988年当時)のままではまずいでしょう、と言っていたのです。

それを、単純に、あるいは感情的に捉えて、「アイツラは園館の敵だ!」と勘違いされていたのかもしれません。
まあ、いつの時代にもそういう人達はいるものですが…(~_~;)

私が、青柳先生と共に、「今のままではまずい!」と感じていたのは、例えばこんなことでした。

ペンギンの生息環境に関する誤解を広めるような展示がいつまでもなくならないこと。
温帯ペンギンが「氷山プール」で飼育されているような事態のことです。

また、どこにどれだけどんなペンギンが飼育されているのか、正確に把握されていないだけでなく、海外から無制限にペンギンを入手しようとして、外国の批判を浴びていたこと。
血統登録の必要性は主張されていたが、誰も実行しようとせず、さらに交雑の可能性が高い飼育方法が野放しになっていました。

全体的に「ペンギンなんて素人でも飼育できる簡単な生き物はどうでもいい!
そんなのは、動物園に入りたての新人の仕事だ!!」という空気が、園館業界全体に漂っていたのです。

まだまだありますが、このくらいにしておきましょう。

しかし、心ある動物園・水族館のスタッフは、幸い少なくありませんでした(^o^)/
降籏さん、福田さん、楠田さん、小森さん、そして歴代の上野動物園園長の方々、さらに若手の実力者たち…、今はみんな、中堅幹部になってしまいましたが、そういう若く正義感の強い、ズーマンシップみなぎる人々が、ペンギン会議を興し、引っ張ってきたのです。

さて、こんな思い出話をしたのは、ここまでご紹介してきた「園館論本」には、そういう言わば仲間が関わっているからです。
だから、この23年間で、すっかりこの世界に浸かってしまった私には、いろいろなシガラミがまとわりついてしまって、この世界を曇りや偏見なく見る力がなくなってしまったのではないか?と、恐れる気持ちが、どこかにあるのです。

だから、真っ当に園館を批判している「良質の文献」を意識的に探すのですが…、実は、最近は、そういう文献も少ないな、と感じるのです。

ここまで、私は何度も旭山動物園の成功の蜜の味のおこぼれに与ろうとする「旭山ヨイショ本」を、かなりきつく嫌ってきました。
また、私は、園館を「入場者数だけで比較したり評価したり」するのは、かなり時代遅れの基準だと考えています。

でも、山のように出版された旭山本の中にも、もちろん、キチンとしたハードな内容のものがあります。
例えば『戦う動物園〜旭山動物園と到津の森公園の物語〜』(小菅正夫・岩野俊郎著、島泰三編、中公新書、2006年7月発行)は、正統派園館論の1つでしょう。

『戦う動物園〜旭山動物園と到津の森公園の物語〜』(小菅正夫・岩野俊郎著、島泰三編、中公新書、2006年7月発行)

前園長の小菅正夫さんの次の言葉は、なるほどな!と頷けるものです。
「動物園ほど、中で働いている人間の思いと、外から捉えられている姿にギャップがある組織も珍しいと思います。」
つまり、業界の常識は世間の非常識かもしれませんし、その逆もある。そのギャップの存在こそが、現代動物園が乗り越えるべき壁の高さや厚さを証明しているのではないでしょうか?

また、数年前から、直接、様々なことを教えていただいている水族館のエキスパート、中村元さんのこの著書も、様々なヒントに満ちています。

『水族館の通になる〜年間3千万人を魅了する楽園の謎〜』(中村元著、祥伝社新書、2005年5月発行)は、「水族館文化論」を主張される中村さんの、水族館への愛情や思いが凝縮された本です。

『水族館の通になる〜年間3千万人を魅了する楽園の謎〜』(中村元著、祥伝社新書、2005年5月発行)

そこから、さらに「大人向け」に理論展開したものが、『水族館狂時代〜おとなを夢中にさせる水の小宇宙〜』(奥村禎秀著、講談社現代新書、2006年10月発行)です。
一応、書名には「水族館」が掲げられており、確かに様々な水族館が紹介・分析されていますが、実は、園館全体にわたる深い考察が基礎にあることがわかります。

『水族館狂時代〜おとなを夢中にさせる水の小宇宙〜』(奥村禎秀著、講談社現代新書、2006年10月発行)

そして…、この本にも引用されている『動物園というメディア』(渡辺守雄ほか著、青弓社、2000年8月発行)という文献。
日橋園長も著者のお一人ですよね!動物園を「一種の社会装置」と考える私の立場にかなり近い著述です。

『動物園というメディア』(渡辺守雄ほか著、青弓社、2000年8月発行)

人が百人集まれば、たぶん百通りの「園館論」があると思います。
しかし、園館は、常に「生きて変化している施設」です。
園館の内側にいるスタッフも、外側にいる利用者も、あるいは「園館反対論者」も、いつまでも「自分の昔の価値観」にしがみつかず、現状を再認識して、新たな園館像を模索する時期にきているのではないでしょうか?

コメント / トラックバック 2 件

  1. こんばんは、大海です。

    11月に千葉市動物公園で行われている「Zooフェスタ」に2年連続で出展させて頂いておりますが、既存の園館であれだけのイベントを実行している場所は他に無いのではないか?と思います。
    「新しい動物園の楽しみ方」の一つとして、素晴らしい試みではないでしょうか?

    「動物文化祭」として、一般の方々にも幅広く、自由に園を楽しんでもらおうと、開催に当たっては園側スタッフの方々が企画、設営、実行、警備、撤収まで細部に渡って計画しておられ、大変な苦労されているのは、毎回出展する側から見てもストレートに伝わって参ります。
    “試行錯誤の部分がたくさんあった”と責任者の方からお話を伺いました。
    園側のスタッフの方々が多忙の中で僅かな時間を割いて、我々の出展ブースに作業着のまま訪れて下さって交流できるのも非常に嬉しいですね。

    上田先生の仰るとおり
    “園館の内側にいるスタッフも、外側にいる利用者も、あるいは「園館反対論者」も、いつまでも「自分の昔の価値観」にしがみつかず、現状を再認識して、新たな園館像を模索する時期にきている”事を実践する一つのモデルになるのではないでしょうか?

    今後も私達人鳥堂は、状況が許す限り出展し続けたいと思っております。

  2. 上田一生 より:

    人鳥堂本舗 大海筆鳥 様

    いつも、貴重なコメントを、ありがとうございますm(__)m!!

    実は、妻からは「最近、小難しい園館論ばっかり書いてるから、みんなにドン引きされちゃってるみたいネェ〜(笑)」とからかわれています(涙)(@_@)

    まあ、しょうがないですね(~_~;)皆さん全てが、動物園や水族館に関心があるわけではありませんからね。
    また、「わざわざそんな理屈をこねなくてもいいのに…」と感じていらっしゃる方も少なくないでしょうね。
    実際、園館スタッフの中にも、そんなに多くはないと信じたいのですが、「そんなのどっちだっていいよ」と感じている人もいらっしゃるかもしれません。

    しかし、私の経験(たかだか23年ばかりの貧しい経験ですが…)からすると、時々「真面目に園館論を論じたり考えたりするスタッフ」が多い施設と少ない施設とでは、やっぱり中身や面白さが違うと思います。

    大海筆鳥さんご指摘の、千葉市動物公園のスタッフの皆さんは、本当に「スゴイ!!」です(^o^)/
    親しい知り合いが何人もいらっしゃるからとか、昔、ここで講演をしたり「ペンギン会議」を開催したりしたからとか、まして、私が千葉県民だから、ということを全て抜きにして、彼等の情熱や技量や行動力には、いつも脱帽です_(._.)_!!

    責任者の方が「試行錯誤の部分がたくさんあった」と仰ったということからも、彼等の「勇気」がよくわかります。普通は、「忙しいから面倒な調整はイヤだよ!」という反応が返ってきます。また、「外部の人間が何を言ってるんだ!」という反応もありがちですね(~_~;)

    そして、千葉市動物公園の例は、決して「例外ではない」と思いますし、そう思いたいですね!!

    これからも、園館の「よきサポーター」として、頑張っていきましょう(^o^)/

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