kochan-mama様から、「ハッピーフィートが行方不明になり、シャチに食べられてしまったかもしれない…」という未確認情報をいただきました。私も、まだ詳しいことは何も知りません。
しかし、残念で悲しいことですが、そういう可能性もあるでしょう。
そろそろそういうシーズンが始まるのですが、春先に南極海まで回遊してきているシャチは、「食いだめ」に来ているのです。春から夏にかけての豊かな南極海でタップリ太り、栄養と体力をつけて、北半球に帰ります。また、子どもたちにも、狩りを教えます。
全ての海獣類、クジラのなかま、そして大型の海鳥がシャチの「食べ物」になります。動きの鈍った老齢個体や巣だったばかりの若い個体は、特に狙われるでしょう。
ペンギンは、一度巣立ち、繁殖できる年齢(3〜4歳)に達すると、死亡率は劇的に低下します。それは、体力がつき、運動能力が高まって、群の中で身を守る適切な行動がとれるようになるからです。また、様々な危険に何回も遭遇する中で、それを回避する生活の知恵、サバイバル術を学ぶからでしょう。
皆さん、私が作って、ペンギン会議全国大会で楽しんでいただいた「エンペラーペンギン双六」を覚えていらっしゃいますか?なかなか前に進まず、何回も「振りだしにもどる」で泣かされたことでしょう。あれは、ワザとそういう仕組みにしたからです。エンペラーペンギンが一人前の大人になるのには、いくつもの大変な試練が待ち構えているからです。
また、あのリュック・ジャケ監督の『皇帝ペンギン』もご覧になったでしょう。あの中では、ヒョウアザラシに親たちが襲われるシーンが出てきました。子育て中の一羽の親鳥の死は、場合によっては、その帰りを待つほかの二羽の死をも意味することがあるのです。
さて、ハッピーフィートの運命ですが…、たしかにシャチなどの天敵に食べられた可能性もあるでしょう。あるいは、体につけたGPSが外れてしまったのかもしれません。あるいは、なんらかの機械的トラブルも考えられます。
いずれにしても、一度野生に離した個体の運命は、野生の世界の掟に委ねなければなりません。もし、悲しいことにハッピーフィートが捕食者に食べられたのだとしても、彼の命は、捕食者の命の中に引き継がれたのです。私は、そう考えることにしています。
ただ、今回は、ハッピーフィートが単独で行動していた可能性が高いと思います。そうなると、群で行動している場合に比べて、捕食者にロックオンされる確率は高くなるでしょう。まだ、動きが鈍く、危険回避経験に乏しいハッピーフィートにとっては、厳しい状況だったに違いありません。
しかし、彼は南極海という故郷の海で、懸命に生きようとしていたのです。不運な面はあったかもしれませんが、これは誰のせいにもできない現実です。そして、野生動物を救護したり保全したりする場合には、こういう厳しい野生の掟にさらされることを、いつも覚悟しておかなくてはなりません。それは、我々人間も例外ではありません。
生き物の「愛護」は、個体に視線を投じます。しかし、「救護と保全」は、個体ではなく集団や種、そして生態系全体を重視します。そのバランスはケースバイケースで難しい問題ですが、これに携わる人間は、いつも厳しい現実や決断に直面することを覚悟しておく必要があるのです。
ハッピーフィートの事例は、今後どう展開するかまだわかりません。しかし、そういう「覚悟」は、常に必要だと思います。