「南極観光」の人気は衰えをしらない。最近は、世界的な不況の影響を受けているようだが、この地球の果て、人類が普通に生活できない「アネクメネ」への憧れを抱く人々は、絶えることがない。
地球に残された最後の自然、最後の野生を求めて、重いカメラを抱えた観光客たちが目指すのは間近に観察できる動物たち。
観光船内でも、専門家による様々なレクチャーが準備されてはいる。しかし、一生に何回も行くところではないので、事前にしっかり勉強していきたい。そう考える人は少なくない。
そこで需要が生じるのが「南極の生物ガイドブック」。これまでにも、内外で数多くのガイドブックが登場した。邦語文献にも、素晴らしいものが多い。
ただ、最近の英語文献には、これまでにない進歩が見られる。その実例をご紹介したい。
例えば、『Antarctic Wildlife』(James Lowen著、WILDGuides Ltd.、2011年)には、ペンギンに関する新しい見方が紹介されている。南極種だけにこだわらず、様々な種類の特徴を的確に解説している。また、種類毎に、いろいろなディスプレイや形態的、生理的特徴を、素晴らしい写真で分かりやすく示している。
また、『A Complete Guide to Antarctic Wildlife』(Hadoram Shirihai著、A&C Black London、2007年)は、初版が2002年に出ている。手元にある初版と比べると、2007年に出たこの第2版は、かなり改良されている。全体に、豊富な写真資料に加え、極めて質の高い「細密画」が添えられ、しかも亜種やヒナや亜成鳥、あるいは換羽期の姿までが、かなり詳しく描かれている。
ペンギンに関しては、ガラパゴスペンギンを除く全てのペンギンが紹介されている。イワトビのバリエーションやコガタの亜種に関する解説も詳細だ。さらに、各種の生態や形態を、具体的でクリアな写真資料を多用して正確に表現している。ここまで写真資料を有効に活用した「ペンギンブック」は、これまでにない。
テキストは、全て専門家の監修を経ているので、極めて信頼性が高い。ペンギンの専門書ではないが、内容的にはほとんど「ペンギンガイドブック」と考えても差し支えないだろう。生きているペンギンに関心がある方には「必携の書」だといえる。
ぜひ、実物をご覧いただきたい。