「かわいい」文化、あるいは「かわいい」思想については、拙著『ペンギンは歴史にもクチバシをはさむ』(岩波書店)でもある程度話題にしましたので、詳しいことは、まずそちらをお読みいただきたいのですが…。まあ、そんなにすぐに結論が出るテーマではないので、今後もゆっくり考えていきたいと思っています。
これまでも、「かわいい」については、様々な媒体で論じられてきました。心理学的分析、美学的分析、論理学的・哲学的分析、さらにコンラート・ローレンツの分析等を引用した論考がありました。
あるいは、かつて青柳先生が仰った「かわいいペンギンを撲滅しなければ…」という表現の、極めて浅薄・皮相な解釈が、一部出版物やサイトに流布したこともありました。実際に、ご本人から直接ご説明や本意を聞いたり、詳しい発言の経緯を知らぬまま、その言葉の一部分だけをとりあげて、勝手な解釈を加えるような姿勢を、私は容認できません。この問題については、いずれゆっくり詳細にお話致しましょう。
さて、今回確認したいことは、日本以外でも、「ペンギンにかわいいを求める」あるいは「ペンギンでかわいいを表現する」具体例が増加しつつある、ということです。かつて、日本人以外は、特に欧米人は「ペンギンをかわいいとは思わない」と断定するような論調がありました。私は、それはバランスであって、欧米人の中にも「ペンギンをかわいいと感じる人々」は少なからずいる。そう主張してきました。
確かに、欧米人には、ペンギンを「卓越した能力を秘めた驚くべき動物」として高く評価し、その生態や生理に科学的関心を寄せる傾向が強く見られます。「かわいい派」は、確かに多数派ではないのです。
しかし、動物園や水族館での観客の反応を客観的に観察してみればすぐに気づくことですが、「かわいい!!」の連呼は、日本人にも欧米人にも、ほぼ同等に見られます。つまり、欧米人も、反射的、あるいは直感的には「ペンギンをかわいい」と感じている。私は、そう考えています。
特に最近10年間、英語圏諸国での「ぺもの」や出版物、映像等には、ペンギンのかわいさを、かなりストレートに表現する実例が増えてきていると思います。「ぺもの図鑑」や「子どもの本たち」でもいくつか実例を示してきましたが、もう1つ「かわいいエンペヒナ」絵本をご紹介致しましょう。
『The Penguin who Wanted to Find Out』(Jill Tomlinson作、Paul Howard画、Egmont UK Limited、2009年)は、典型的なエンペラーペンギン絵本です。従来の欧米の「エンペヒナ絵本」には、どちらかというと、南極の厳しさやエンペラーの逞しさがハッキリと強調されて描かれる傾向がありました。
しかし、この絵本の主人公=エンペヒナのOttoのように、かなりマンガ的なかわいさを明確に漂わせた作品が、次第に増えています。
この流れが、今後どうなるのか?興味深く見守っていきたいと思います。