巨大氷山「A68a」の最新続報です〜サウスジョージア島周辺の海流について〜

2020 年 12 月 1 日 火曜日

巨大氷山「A68a」につきましては、11月11日、25日と2回にわたり、海外メディアによる断片的な情報に、若干のペンギンに関するデータを加えながら解説して参りました。また、その後、過去の巨大氷山の事例から想定できるサウスジョージア島に生息するペンギンへの影響について、少し詳しい分析を致しました。

今回は、11月17~19日にかけて、以下のメディア(◇1・2)で公開された追加・経過情報や氷山に関する専門家の見解などをご紹介しながら、現状分析をしてみたいと思います。

◇1:SciTechDaily 電子版 : 11月17日掲載情報
http://scitechdaily.com/massive-iceberg-a-68a-closing-in-on-south-georgia/

◇2:EarthSky in Earth 電子版 : 11月19日掲載情報
https://earthsky.org/earth/huge-iceberg-a68a-nears-south-georgia-island-nov202

ちなみに、これまでこの巨大氷山を「A68a」と表記してきましたが、今回の2つのメディア(◇1・2)では「A68A」と表記されています。メディアによって、表記の仕方にばらつきがあるわけです。ここでは、詳細を避けて、これまで通り「A68a」と表記して参りますので、よろしくお願い致します。

さて、できればどちらかの記事の画面を実際に確認していただきたいのですが、2つの重要な画像が掲載されています。1つは、NASA Earth Observatory(NASAの地上観測衛星)がとらえた 11月5日の映像。もう1つは、同じ観測衛星が 2017年9月7日から2020年11月13日 の間に撮影した「A68a」の移動(漂流)航跡を、青い線でトレースした画像です。

前者の画像には、中央を占めるサウスジョージア島の南南西に位置する「A68a」の真っ白い姿と、サウスジョージア島の北北東に位置する小さな「A68c」の姿が写っています。「A68c」は、「A68a」の破片で、すでにサウスジョージア島南方を通過して、急速に融解しつつあるようです。一方、「A68a」のこの時点での大きさは、151km × 48km。サウスジョージア島の大きさが 167km × 37km ですから、面積的には「A68a」の方が優っています。この映像が撮影された時、巨大氷山とサウスジョージア島との距離は500km以下になっていました。

後者の画像から読みとれる情報や状況は、より深刻です。結論から言えば、「A68a」は、その巨大さゆえに、「A68c」のようにサウスジョージア島南方をすり抜けることができず、サウスジョージア島の周辺にある「渦のような海流」に巻き込まれ、島の方に戻ってくる可能性が高いと考える専門家もいるのです。◇1・2とも、Brigham Young 大学の研究者 David Long氏 の分析を紹介しています。

Long氏によれば、2017年に発生した「A68a」は、これまでウェッデル海、特に南極半島(ラーセン棚氷)から生まれた巨大氷山の多くがそうであったように、「巨大氷山通り」ともいうべきルート、すなわち南極半島東岸沿いにウェッデル海を北上し、南極半島の先端に達しました。小さな氷山のほとんどは、そこから海水温の高い北の海域に入った途端、急速に融解していきます。しかし、「A68a」は違いました。2017年から2020年4月まで、特に冬の間は、発達した海氷(浮氷)に阻まれて、なかなか「周極流」にのれなかったようです。ところが、南極半島先端から北上したにも拘わらず、また、より温かい海域で円を描いて旋回したにも拘わらず、急激に小さくなることはありませんでした。それどころか、「周極流」にのってからは、やや蛇行しながらも、ほぼまっすぐサウスジョージア島に向かって漂流し続けているのです。

過去、この海域を漂流した巨大氷山は、例外なくサウスジョージア島南方を通過しました。Long氏は、「A68a」もそうなるだろうと指摘した上で、さらに次のように想定しています。

「もし『A68a』がサウスジョージア島に接近すれば、10年以上前同じルートをたどったより小さな『A22a』のように、島の東岸に向かう渦のような沿岸反流に巻き込まれ、島の方に引き戻されるかもしれません。一方、『A68a』が島のはるか南方を通過すれば、沿岸反流にとらわれることなく、東北東に向かうでしょう。」

「A68a」がサウスジョージア島に座礁するとしても、はるか南方を通過するとしても、いずれは小さないくつもの破片に分解し、融解していくことは間違いありません。しかし、座礁した場合、これだけ巨大な氷山がこの島に漂着したことはこれまで確認されたことがないので、いったいどれくらい長い間そこに居座り続けるのか、全く予測できません。さらに、この島や海域に依存している多くの野生動物や周辺の生態系が、どのようなダメージを受けどのような改変を迫られるのか?今の段階では、正確な予測は不可能です。

いずれにしても、これから1ヶ月ほどの動きを、注意深く見守りたいと思います。

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