2022年10月25日(火)、アメリカ合衆国魚類野生生物局(United States Fish and Wildlife Service :FWS)が、エンペラーペンギンを、「絶滅危惧種保護法(Endengered Species Act :ESA)」に基づいて「絶滅危惧種」に指定したと発表しました。
発表の全文と詳しい内容につきましては、以下の専用サイトにてご確認下さい。
地球温暖化や気候変動の深刻化に伴って、南極の固有種であるエンペラーペンギンの個体数減少に対する懸念が高まっています。上田が所属する国際自然保護連合(IUCN)のペンギン・スペシャリスト・グループ(PSG)でも、『ペンギン・レッドリスト』のまとめにあたっては様々な議論が重ねられてきました。
しかし、今のところ、広大な南極の浮氷上を中心に繁殖するエンペラーペンギンの詳細かつ正確な個体群・個体数の把握は、残念ながら不可能な状況です。浮氷帯の不安定さや南極の真冬を中心に繁殖するというエンペラーペンギンの生態が原因で、この種の実態はまだ多くの謎に包まれているからです。
そこで、専門家の間では「個体数は安定しているが未確認の部分が大きい」という評価が定着しています。これまでは、所在や個体数がある程度はっきりしているいくつかの「地域(範囲)」を「南極特別管理地区(Antarctic Specially Management Area :ASMA)」または「南極特別保護区(Antarctic Specially Protected Area :ASPA)」として指定してきました。しかし、これだけでは、南極にいる全ての個体群を保全することはできませんでした。
今回のFWSの発表は、アメリカ合衆国の国内法ではあるものの、エンペラーペンギンをESAの「絶滅危惧種」に指定することで、南極全体のエンペラーペンギンを「1つの種として包括的に保全する」ことを明確に宣言したことになります。
これは、南極全体の環境悪化の中でこの種を保全することの難しさを改めて示すと同時に、これまで南極条約等に明確に違反しているにも拘わらず、やむを得ず「見過ごされてきた」エンペラーペンギンの密猟や密輸を牽制し、それらの企てに対して警告を与えることになります。
そのような意味で、今後の動向を注視していきたいと考えております。