第11回国際ペンギン会議(IPC XI)報告 【その4】

2023 年 9 月 26 日 火曜日

さて、いよいよ今回のIPC XI で発表されたり意見・情報交換されたりしたペンギンに関する様々な話題について、いくつか具体的にご紹介していきましょう。

1、「ペンギン22種」説を巡るやりとり

9月4日(月)、開会直後の基調講演で、ゲノム研究の専門家、チリのジュリアナ・ヴィアーナ博士がまとめた最近の遺伝学的ペンギン研究の動向に関する話題は、多くのペンギン研究者の注目を集めました。特に、ヒガシイワトビペンギンをミナミイワトビペンギンとは異なる独立種とすべきだという主張、ジェンツーペンギンをキタジェンツーペンギン、ミナミジェンツーペンギン、ヒガシジェンツーペンギン、ナントウジェンツーペンギンの4種に分けるべきだという主張、ハネジロペンギンを再び独立種に戻すべきだという主張には、賛否両論、議論が白熱しました。

ちなみに、添付の画像は、基調講演中のジュリアナ・ヴィアーナ博士と「ペンギン22種説」を示したスライドです。「22種説」で増えた4種とは、ジェンツー×3とハネジロペンギンです。

既存の18種に関する遺伝的研究は、6属全てで積極的に進められているとのことですが、キングペンギンについては、今のところ目立った分化の兆候は見られないということでした。しかし、繁殖地の孤立化が進むと亜種が独立していく傾向が強まるだろうとの見通しも示されました。

2、フンボルトペンギン属(4種)を巡る現状について

IPC XI の公式日程は9月4日(月)からでしたが、その前日、3日(日)に、ヴィーニャ・デル・マール市内の別会場でアンドレス・ベル大学が主宰するワークショップが開かれ、フンボルトペンギン属4種を巡る現状報告と様々な課題に関する意見交換が行われました。(その様子は添付画像の通りです。)

フンボルトペンギン属の内3種(フンボルト、マゼラン、ガラパゴス)は南米に分布する固有種であり、いずれも個体数減少や種としての存続が心配されているという事情が背景にあることは言うまでもありません。

結論から言いますと、フンボルトペンギン属全体が極めて危機的な状況にあることが明白になり、今後、4種に関する関係者間の定期的情報交換、意見交換を確実に継続しながら、研究と保全活動とを活発化していこうという共通認識が形成されました。

アフリカ固有のケープペンギン(アフリカンペンギン)の危機的状況につきましては、既にこの報告や「世界中でケープペンギンを思う一週間」の呼びかけでもお知らせしてきた通りです。実は、南米固有のフンボルト、マゼラン、ガラパゴスの3種につきましても、ケープに似た多くの困難が同時並行的に襲いかかっているのです。

その主な「脅威」は以下の通りです。

◆海水面温度上昇による餌生物不足
◆陸上の気温上昇(高温化)による体力低下
◆気候変動、特に降水量急増と強風による繁殖成功率低下
◆山火事増加による繁殖地の荒廃
◆グアノ層盗掘による繁殖地喪失
◆野生個体の密猟・密売による個体数減少
◆野生個体をカニ漁のエサとして違法捕獲することによる個体数減少
◆オーバーツーリズムによる繁殖地環境の悪化と繁殖成功率の低下
◆ペンギンの主な採食海域における商業的(企業的)漁業との競合=餌生物の人間による乱獲や混獲の拡大:特にアジアからの大漁船団による乱獲と混獲
◆繁殖地周辺海域の海洋汚染による被害:特に重油流出、プラスチックゴミ、マイクロプラスチック、重金属汚染による被害
◆海底油田、パイプライン建設に伴う海洋汚染、船舶往来増加による被害
◆鳥インフルエンザなどの人畜共通感染症による被害

この内、「鳥インフルエンザによる被害状況」につきましては、今回のIPC XI に前日のワークショップから参加した日本人発表者のお一人にお願い致しまして、詳細なデータをまとめていただいております。後日、ペンギン会議(PCJ)全国大会等の場でご報告申し上げる予定です。

次回=【その5】では、さらに別の話題についてご報告致します。

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