最近は、どこの園館でも、ある程度の時間を割いて「展示動物の解説」をするのが当たり前になった。「エサの時間」におこなわれる「給餌解説=フィーディングトーク」はその典型。インカムをつけた飼育担当者がペンギンに魚を与えながら、展示しているペンギンの種類や生態、餌の種類や与え方について説明する。
こういう場面を見て、「飼育係ってカッコイイ!!」と憧れてしまう人もいるらしい。まあ、イルカやシャチのショー、ゾウやキリン等の大型草食獣へのフィーディングトークに比べると、「ペンギントーク」はずいぶん地味だ。でも、飼育担当者から話を直接聴ける、場合によっては質問にも気軽に応えてくれるとなれば、飼育担当者への尊敬や憧れの気持ちが一層燃え上がるのかもしれない。
ちょっと脱線するが、昔(たかだか25年ほど昔)の飼育担当者は、そんなに優しくなかった。欧米の園館でも多少そのきらいはあったが、日本はホントに怖かった。「飼育のオジサン」は、大概ムッツリしていて黙々と仕事をこなし、そそくさと去っていくのが当たり前だった。だから、話しかけて何か質問できる雰囲気など微塵もなかったのだ。いや、むしろ「話しかけないでね!私は仕事中です!!」的なオーラで全身を包んでいた、といった方がいい。あの降籏さんですら、若い頃は、近づき難い一種の「威圧感」を発散させていたのだ。
だから、東武動物公園でカバ園長と呼ばれた西山さん、王子動物園の亀井さんといった方々は、ホントに例外的な存在だった。増井さんは獣医さんだったが、上野動物園の園長になられた時には、「ああ奇跡だ!!」と思ったものだ。上野動物園の斎藤さん、小宮さん、旭山動物園の小管さん、そして埼玉子どもの日橋さんというあたりまで時代が下ると、「飼育のオジサン」はずいぶん親しみやすい存在になる。
園館で、ショー以外の「動物解説」が普及し定着していったのは、やはり1980年代以降だと思う。それまでは、「解説板だけで十分じゃないか」とか「インカム等の機材が整っていないから」といった理由と共に、混雑して物理的に危険だから観客を滞留させたくない、という配慮もあったに違いない。
確かに、様々な展示場は、例えば、水族館の「汽車窓水槽」や動物園の金網式獣舎配列(頑丈な鉄製の檻を並べる方式)のように、見学者の動線を規制し、大勢が立ち止まったり腰かけたりして、ゆっくりゆったり見学し観察することを許さない設計・配置になっていた。今でも、椅子やベンチが非常に少ない園館が目立つのは、ちょっと残念なことだ。
そろそろ話の筋道を本道に戻そう。
つまり、この「ペンギンビーチ」のゆったり感をご覧いただきたいのだ!メインプールのガラス面に沿う見学通路の幅は、いかがだろうか?確かに、ガラス面に観客が張りついてしまうと若干滞留によって手狭になる。しかし、動線のいたる所に逃げの空間が用意されていて、メインプール正面には大きな木製スタンドが陣取っているから、多少の混雑は気にならない。
「ビーチライヴ」とか「エキストラトーク」といったイベントは、主としてこのスタンド前で行われる。ちなみに、ロンドン動物園だけでなく、最近、海外の園館では、このようなスタンドを各々の展示場ごとに1つずつ設置する傾向が明白になってきている。「解説重視」の姿勢がますます鮮明になってきていると思う。さあ、そのねらいはなんでしょう?
答えを出す前に、まず、「エキストラトーク」のポイント=一種の「コマセ」をご紹介しよう。
園内放送やサインに促されて、見学者が少しずつスタンドに集まる。開始前に、ある仕掛けが、プール正面のガラスに出現。魚を入れた網の袋にロープを結び、袋とは反対の端に重石をつけた「ペンギン寄せ」が3つ、設置された。ペンギンたちが次々に餌袋を突っつきに集まってくるのだ。
さて、トークが始まる。
最初は、ビーチボール型地球儀でペンギンの生息地を確認。次に、観客からボランティアを募って、ペンギンの体の部位や特徴を説明する。足、胴体、フリッパー、クチバシ、飾り羽の順に身につけていく。フリッパーの裏が真っ黒なのはご愛敬。観客には「あれいいなあ〜」という溜め息や、可愛い姿に変身していくわが子を写真におさめようとする親たちの熱気が充満していくのですね。
さて…、トークの最後は、こんな調子でしめ括られる。
「皆さん!今、野生のペンギンたちは個体数が減少し、いろいろな問題に直面しています。絶滅の危機に瀕している種類も少なくありません。その主な原因は3つあります。1つは地球規模での温暖化です。2つ目は人間による餌生物の乱獲。そして最後は、生息地の破壊です。」
こうして3つの背景を説明した後…、
「でも、皆さんにもペンギンたちを守る具体的な方法があります。それはまず、ムダをなくすこと。次にこうして動物園に来て動物たちを観察し、生きた情報を学ぶこと。最後に、お魚や海の幸をよく考えて買うこと、です。皆さん、お近くのマーケットで、こんなマークがついた海産品を見かけませんか?これは、その海産品が海洋環境に十分配慮した適切な方法で捕られたものだということを、証明しているんです。」
こういう調子でトークは終わる。解散した聴衆は、「あの着ぐるみをわが子に着せて写真を撮りたい!」グループと、もっと詳しい資料展示を見たいグループと…、じゃ、もうしばらくここで観察しようグループに、別れていく。
午後の「ビーチライヴ」も、語られる内容はだいたい同じ。でも、聴衆はスゴい!!正確に数えたわけではないが、たぶん900人以上はいたと思う。例のスタンドに収まりきらないのは当然。ガードマンが何人も巡回して、怪我人が出ないよう注意を促していた。
こんな大盛況の「ペンギントーク」を見たのは初めてだった。イギリス人にもとうとう「ペンギンラブ」の火が点いたか!?と思えるような熱気だった。
ただし、これは「オープンしてまだ3ヶ月」の特別な熱狂、一時的なブームかもしれない。今後、しばらく観察して、なりゆきに注意することにしよう。
次回は、マニアのあなたのために…、サイン、解説板、施設細部に目を向けてみよう。
埼玉のペンギンヒルズには、ちょうどいい距離でベンチがありますね。
大阪の海遊館もペンギンの前にベンチがあり、そこからまったり観ることができますね。しかも、薄暗いのでずーと座ってても目立たないのがいいです。
>manchot 様
なにもベンチでなくともいいんですが、お気に入りの展示や動物の前でゆっくり観察したりくつろぎたい、そう考える利用者はたぶんかなり多いと思います。
展示を全て見たいという利用者をできるだけ効率よくさばくには、確かに滞留の原因となる要素は排除しなければならないでしょう。
しかし、疲れきった利用者を癒す工夫は、ぜひ忘れないで欲しいものです(^o^)v!!