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サイト開始2周年特集「私的ロンドン動物園ペンギン案内」〜その9〜「飼育の工夫あれこれ:続き」

2011 年 9 月 6 日 火曜日

ロンドン動物園の新しいペンギンビーチは、繁殖場所が観客席や動線からかなり遠ざけられている。これは、親鳥達が、観客の歓声や視線を気にせず、落ち着いて繁殖に集中できるように配慮したからだろう。

しかし、「子育ての様子=繁殖生態をきちんと見せる」ということも、園館の基本的使命の1つだ。そこで造られたのが、この「ペンギン育児室」。この一種の隔離展示は、観客動線の最後=例のウッドデッキを降りたところにある。

ロンドン動物園「ペンギン育児室」 ロンドン動物園「ペンギン育児室」 ロンドン動物園「ペンギン育児室」

小さな浅い(最大水深50cmくらい)楕円プールを中心に、木製犬小屋式の巣小屋が置かれている。敷地内には玉砂利が敷かれ、この点は、メイン展示のつくりと同じ発想だ。

強化ガラスに貼られた解説によると、「例年は3〜6月が繁殖シーズン」だそうだ。もちろん、ここに全ての繁殖ペアやヒナを移すことはないだろう。比較的人の視線や大声に慣れた個体、いわゆる「人工繁殖個体」あるいは「ふれあい対象個体」が優先的に展示されるのだと思う。

次は、いわゆる「調餌室」。日本でもよくあるが、冷凍庫を含む管理棟の一部がガラス張りになっている。流しで「餌の魚を解凍しているところ」を見学できるしくみ。餌は、主にイワシやタラだそうだ。

ロンドン動物園「調餌室」

ミストについても触れておきたい。最近、日本では毎年夏期の最高気温が更新され、40℃以上になることも珍しくない。その上、日本は湿度が高く、熱中症のリスクが高い。

ロンドン動物園「ミスト」 ロンドン動物園「ミスト」

しかし、ロンドンは真夏でも最高気温が25℃に達することはほとんどなく、湿度も低い。だから、なぜこんなにミストにこだわるのか、今の段階ではちょっと理解に苦しむ。写真の場所は、大きな柳の木陰で涼しい。また、大きな擬岩の陰で、観客動線の死角になっている。だから、若鳥を含め、多くの個体が寝そべって寛いでいる。ひょっとすると、ミストの涼しさに引き寄せられているのかもしれない。

日本では、日陰でこんなに濡れた状態をつくると、アスペルギルスの発症率を上げる危険があるので、ここまで濃いミストを出すことは少ない。今後の推移を見守る必要があるだろう。

さて、先ほどの「調餌室」がある管理棟を、ちょっと「ひき」で眺めると、こんな感じになる。何か気づきましたか?…、そう!管理棟の軒や、施設を囲む鉄柵に何か着いてますね!!

ロンドン動物園「電気柵(電柵)」 ロンドン動物園「電気柵(電柵)」

これは「電気柵(電柵)」。通電されていて、哺乳類等が後肢で立ち上がり前肢で線を掴んだり、2本以上の線を同時に掴んだりすると、電撃ショックを受けるようになっている。近づいてよく見れば、ちゃんと注意書がある。

これは、主に捕食者対策。イヌやネコ、キツネ、フェレット等の侵入を防ぐための仕掛け。日本では、過去にタヌキやハクビシン等にペンギンが襲われた記録がある。親鳥が狙われる場合や、ヒナや卵が狙われる場合もある。ペンギンヒルズにもちゃんと設置してありますから、今度確認して下さい。

最後はガラスに注目!ペンギンビーチのプールガラスは、基本的に強化ガラス(約15mm厚2枚重ね)をH鋼でつなぐ形式。アクリルガラスを用いているのは、直径約1.5mのアクリル半球だけ。「なあんだ!古いなあ!!」と言うなかれ!この方がう〜〜〜んと安上がりだし、アクリル面の傷の補正等を考えると、一番合理的で経済的な選択かもしれない。

ロンドン動物園「強化ガラスとH鋼」

やたらアクリルを使いまくるだけが「良い展示」ではないのだ。

さあ、次回は売店やグッズ、附帯設備について見ていこう。

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