以前にも書いたような気がするが、「園館に解説板は不必要」という考え方もある。「展示動物そのものの魅力」を十分引き出せていれば、「言葉はいらない」という発想だ。あるいは、「どうせお客さんは解説など読まないよ!!」という「前提」で演示を構成する場合もあるだろう。
たしかに、家族サービスで疲労困憊しているお父さんや、今夜の食事のしたくのことで頭が一杯のお母さんが、食い入るように「解説板をのぞきこむ」ということは考えにくい。また、読めない漢字や苦手な数字やアルファベットがたくさん書いてある「解説板」は、子どもに勉強を連想させこそすれ楽しさを引き出すことは不可能だ、という見方もわからないではない。
しかし、そういう利用者がほとんどだ、と断定する客観的材料は、どこにあるのだろう?何か、特別な専門家による調査機関があって、統計的に有意かつ確定的な調査結果を発表しているのだろうか?つまり、園館における「解説板の効用」は全くないという専門的評価が定着しているのだろうか?
いないと思う。もし、それらが無意味ならば、とっくの昔に世界中の園館からあらゆる「解説」が消滅しているだろう。私が実際に観察し体験してきたところでは、少なくとも半世紀くらい前から、30ヵ国以上の園館で、「解説皆無」という施設は全くない。
要するに「解説はいろいろな意味で難しい」のだ。だから、「めんどくさい」という意味をもこめて、「解説なんて結局はムダなんだ!!」と断言した方が気分爽快なのであろう。
では、何が「いろいろな意味」で難しいのか?全てをここに書き出して論じるのは大変なので、とりあえず主要なものを以下に箇条書きにしよう。
- 1、予算がかかる。
- 2、内容が思い浮かばない。資料がない。
- 3、文章や絵をかけるスタッフがいない。
- 4、クレームが心配だ。
- 5、展示場が雑然とする。
- 6、劣化しやすく管理に手間がかかる。
- 7、理屈っぽいという印象を与える。
- 8、ショーの邪魔になる。
- 9、観客通路が狭く、滞留させられない。
- 10、古い解説と新しい解説との整合性やデザインの統一性がとれない。
- 11、文字を読むための照明を取りつけると水槽のガラスに「映りこむ」ので展示効果が低減する。
要するに、設置関係者にとって、頭の痛い問題が団体で押し寄せてくるのだ。結果的に、各々の園館における「解説に対する基本姿勢」は、その時々の現場スタッフの技量と情熱によって左右されることになる。「運しだい」とも言えるし、「流れに任せる」ということもできるだろう。
それでいいのだろうか?
「手作り解説」が注目を集めている。それを否定しているわけではない。それは、「解説演示」の1つの重要なテクニックだ。しかし、各々の園館には「トータルイメージ」、統一感も欠かせない。高校の文化祭的、ごった煮的楽しさ、賑やかさを演出するのも1つのテだ。しかし、それだけで何十年も施設を維持できるだろうか?
さて、今回は、そういう目で、エディンバラ動物園の伝統的ペンギン展示、解説演示を見てみよう。
結論からいうと、「いくつかの時期の解説スタイルが混在している」ことがわかるだろう。ここにご紹介した映像は、その代表的な例だ。「カッチリ」つくった「研究・保全に関するプレート」がある。いくつかの「種別解説」も同じトーンでまとめられている。一方、「手作り」の少し劣化し退色した写真資料と解説が、画鋲やテープで壁に貼ってある。体重測定や採血の様子らしい。さらに…、プールの壁面には、いまは飼育されていないマカロニペンギンの解説が残されている。という具合。
これでいいや!と半ば開き直っているのか?予算がないからね!という苦しい台所事情からなのか?はたまた、この方が、バラエティーが豊富でいいじゃないか!と積極的に肯定しているからなのか?正確な事情は不明。
しかし、とかく、歴史と伝統がある園館であればあるほど、思いきった大改装をしない限り、このような「解説スタイルの地層」が、必ず現れる。それを楽しむのも「ツウの楽しみ方」なのかもしれない。
次回は、飼育の工夫について見ていこう。
解説板や規制サインは、つける人は多いのですが、取り外すことがあまりされないのです。。。 某動物園にいるときに、サインの調査をしました。いろんな時代につけられていて、誰がつけたのかも不明なものも。。。
ぜひ、ペンギン解説板の多様性というか、書かれている内容の調査も面白いテーマかもしれないですね。
解説板は、しっかり読んでくれている人もいるので、
何か知識を得て帰りたい人には必要ですね。
また、専門用語は固有名詞と同じようなもので、
情報を提供されていないと一生触れる機会がないと思います。
人が知らない言葉を知りたいという知的欲求を満たしたい人には、
専門用語というものは魅力的なのかもしれません。
ただ、そんな難しいことばかりではユーザーが限定されてしまいますので、大人を対象にしたやや難しい内容のものや、
子供も対象にした図を中心とした簡単な内容のもの、
あるいは障害のある方を対象としたハンズオン系のものなど
いろいろなものがつくられます。
また、お金をかけてつくるものは、そうそう取り替えることはできませんので、
図鑑で得られるような内容で、小学校高学年以上くらいに理解できるように
書かれているものが多いかと思います。
ですから、このタイプのものはどこの動物園や水族館でも
概ね同じようなものが見られると思います。
パソコンを使って個人レベルでつくられるようなものは、
上田さんがおっしゃっているように、
内容はバラバラ、
体裁もまちまち、
新しいものから、いつつくったか分からない古いものまで
それはもう様々なものが混在しています。
しかし、それは飼育担当者の個人的興味から
つくられているものが多いので、
見方によっては時々おもしろいものもあるのは確かです。
パソコンソフトの機能が高度になったおかげで、
今までは印刷屋さんや看板やさんに外注しなければならなかったものが、
自分一人で1時間もあればできあがってしまうという
便利な世の中になりました。
解説板は、自分が感じたおもしろいことをなんとかお客さんにも
知ってもらいたいという思いでつくっています。
でも、せっかくつくっても読んでもらえなければ伝わりません。
お客さんに楽しみながらいきものの知識を得てもらえるような解説板を
つくれるといいのですが・・・。
なかなか難しいですね。
全く読んでくれない人がかなり多くいるのも確かですし・・・。
>SAKAMOTO 様
>新山 様
いつも大変お世話になっておりますm(__)m!!プロのお二人にコメントをいただき、本当にありがとうございますm(__)m!!
解説板やサインの取りつけ時期や取りつけ者がわからない…、というのはなんだか「牧歌的」な感じがします(^○^)!!
SAKAMOTO様のご指摘のように、全国にあまたある園館の「注意喚起サイン」や「案内サイン」、「動物種別の解説板」の一斉比較調査をしてみる価値は、あると思います。
過去にペンギン会議でも、小規模な調査や分科会を試みたことはあるのですが…(^○^)たぶん、該当施設スタッフの情熱が伝わってくるのではないか?と思います。
また、新山様ご指摘のように、最近30年間の様々な機材革新で、スタッフの皆様の「情報発信力」が何倍にも向上したと思います。そのぶん、現場の方々の双肩にかかる負担も増えましたね(~_~;)
「解説を全く見ない利用者が多い」というご指摘も、その通りだと思います。しかし、リピーターの多くはキチンと見ていますし、全ての解説を読むのではなく、一部の解説だけを「拾い読み」する方も少なくないと思います。
利用者のニーズがどこにあるか?園館からのメッセージや情報提供を積極的に行うと共に、観客との意識交換をより進めていくにはどうしたらよいか?なかなか課題は尽きませんね(^○^)!!