「バンカリング」問題とは、石油汚染問題の新しい形態で、特に2000年代に入ってから、海洋での原油・重油等の石油輸送をめぐる世界的な課題となっています。
これまで、海洋での石油汚染問題は、その発生原因の違いなどから、おおむね以下のように分類されてきました。
①、タンカーの座礁・沈没事故による積荷の石油の流出。
②、貨物船などタンカー以外の船舶の座礁・沈没による燃料用重油・機械油の流出。
③、船舶の空き燃料タンクにバラスト水として注入した汚染海水の違法投棄。
④、船舶の底に溜まった機械油を主とする汚水=「ビルジ」の違法投棄。
⑤、港など沿岸部に造られた石油・重油貯蔵施設からの流出事故。
⑥、海底油田ステーションでの事故、または海底油田試掘中の事故による流出。
⑦、海底パイプラインの事故による流出。
これらに新しく加わったのが「バンカリング」事故による流出です。「バンカリング=bunkering」とは、海上で、特殊なパイプを用いて、船舶から船舶へと原油や重油などを積み換えることを指します。あるいは、陸上に設置された備蓄タンクからパイプラインを伸ばして、港湾内(海上)に原油・重油の積み換えが可能なステーションを設置し、そこで積荷(原油や重油)の揚げ下ろしをすることを意味します。
「バンカリングによる油汚染事故」でペンギンが犠牲になったケースとしては、今年1月15日にペルーで起こった「トンガでの火山噴火の影響を受けた津波被害による原油流出事故」で、20羽前後のフンボルトペンギンが死亡した例があります。その経過につきましては、以前、ご報告した通りです。
さて、今回は、南アフリカのアルゴア湾内における「バンカリング」に関する問題で、新たな展開があったというお話です。
前回の「オンラインペンギン会議全国大会」でも申し上げました通り、現在、南アフリカでは、ケープペンギンの個体数が集中しているケープ地方東部にあるアルゴワ湾内で、重化学工業地帯の建設が進められています。南アフリカでは、経済界を中心に、多くの船舶が往来するこの海域における「バンカリング」の必要性を強調し、「バンカリング」可能な海域の拡張を求める声が高まっているのです。
現地では、SANCCOBや研究者、水産関係者、環境保全を推進する様々な組織や団体が連携して、「南アフリカ海事安全局」にはたらきかけ、「バンカリング可能な海域の拡張差し止め」あるいは「バンカリング可能海域拡張停止期間の延期」を求めてきました。
その結果、4月1日、「南アフリカ海事安全局」は、「バンカリング可能海域の拡張判断の再延期」を決定し、公表したのです。これによって「アルゴワ湾内に広くバンカリング可能海域が拡張されること」は、一時的に回避されました。しかし、今後も、経済界からは「拡張を求める声」がより強く出てくるものと思われます。
実は、日本郵船によれば、「バイオ燃料を用いてシンガポール~南アフリカ間の試験航行に2回成功した」というニュースがあります。ということは、海運業界の「脱炭素化」すなわち「重油等の化石燃料からの脱却」によって、船舶事故や「バンカリング事故による被害の軽減」が可能になるかもしれないのです。とはいえ、この新しい技術の確立と普及にはまだまだ時間が必要です。
「バンカリング問題」につきましては、これからも注目して参りましょう。
なお、今回の報告は、SANCCOBの正規会員でいらっしゃる大黒様からいただいた貴重な情報をもとにまとめました。大黒様のお力添えに、深く感謝申し上げます。