IPC XI のコーディネーター、チリのアレハンドロ・シメオネ博士によれば、今回の参加者は200人とのことです。しかし、口頭発表が行われた会場内で実際に聴衆を数えたところ、300人近い人々がいました。
9月4日(月)の第1日目から8日(金)の第5日目まで、基調講演4題、口頭発表75題、ポスター発表87題、合計166題の発表がありました。これ以外にも、正式日程前日の9月3日(日)には、別会場(ヴィーニャ市内の大学)で複数のワークショップが行われ、90人近い参加者がありました。さらに、正式日程中に、研究者を目指す学生を対象としたワークショップや国際自然保護連合(IUCN)のペンギン・スペシャリスト・グループ(GPS)によるオープン・セッションが開かれました。
こうした一連のプレゼンテーションやワークショップに参加した人々を加えると、実際の参加者は400人近かったと思われます。というのも、ヴィーニャ・デル・マールだけでなく、車で片道90分ほどかかるサンティアゴにある大学等からも、入れ替わり立ち替わり学生や大学関係者がやって来ていたからです。
ところで、会期中、ある日本人参加者からこんな質問(感想?)を受けました。
「新しい発表は意外に少ないんですね⁉️過去の歴史の振り返りやまとめ的な話が多いと思います。」
その通りです。それがIPCの特長なのです。別の言い方をすると、「IPCはいわゆる学会」ではありません。
ペンギンの研究実績を持つ研究者は、現在世界中にざっと800人いるという90歳近いベテラン研究者がいます。その真偽は別として、専門家によるペンギン研究は、この半世紀間増加し続けています。その論文の多くは、著名な科学雑誌や大学・研究機関の出版物、各国の動物学会、鳥類学会、南極研究関連の学会、バイオロギング学会等で発表されています。IPCで初めて公表される研究結果は、それほど多くないのです。
第1回IPCが開かれたのは1988年でした。その中心となったのは、イギリスのバーナード・ストーンハウス博士(故人)とアメリカのデイヴィッド・エインリー博士、同じくアメリカのディー・ボースマ博士、ニュージーランドのロイド・デイヴィス博士、南アフリカのローリー・ウィルソン博士等でした。
この顔ぶれは、1970年代から1980年代にかけて、精力的にペンギン学を牽引したオピニオンリーダーたちでした。彼らの共通点は、ペンギン研究とペンギン保全との両立でした。飼育下個体群はもちろん、野生個体群の研究においても「ペンギンやその生息環境に過度のストレスや負担をかけてはいけない」という共通認識を持っていたのです。従って、ペンギン研究者は、できるだけ直接顔を合わせて話し合い、研究の無意味な重複を避け、より効果的な共同研究を模索することに努めるべきだと考えたのです。
それだけではありません。ペンギン保全を成功させるためには、長期個体数変動など、数十年間、いや研究者数世代にわたる、長い視野を持ち、忍耐強く研究を維持し継続する姿勢が求められているという認識も醸成されていったのです。
というわけですから、IPCでは、次のようなことが重視されるのです。
1、可能な限り多くのペンギン関係者が直接顔を合わせて話し合うこと。
2、長期的視野・思考を重視し、先行研究を常に意識しながら、より合理的・効率的な研究・調査・保全活動を計画・実現していくこと。
3、常に次世代を担う若手の研究者、保全活動家を発掘・確保しながら、過去の知見を伝達・共有して、新たな解決策を模索すること。
今回はIPCの特性について、少し振り返ってみました。次回は、具体的な発表や話題の中身をご報告して参ります。