綿貫 豊先生には、ペンギン会議をはじめ様々な場面で大変お世話になって参りました。今回のご著書を書店で手にした時、表紙カバー裏見返しの「著者近影」に眼がとまりました。北海道天売島の岩場で撮影されたとのこと。やっぱり、研究者はフィールドが一番好きなんだなあ‼️先生の笑顔が、なにより雄弁に、お気持ちを語っている、素晴らしい1枚です。
一方、「あとがき」には、今回の執筆について、先生が躊躇われた経緯が記されています。「自分の研究実績ではないデータを多用すること」への躊躇い。誠実な研究者である先生のお人柄が、行間から痛いほど伝わってきました。
先生の前著、『海鳥の行動と生態―その海洋生活への適応』(生物研究社、2010年)が出たのは今から12年前。この本は、海鳥に関する基本的データを網羅し、4つの海鳥の「目」、すなわちペンギン目、ミズナギドリ目、ペリカン目、チドリ目をバランスよく比較した極めて上質な専門書として、現在でも私が最も信頼する教科書です。その「はじめに」には、「ペンギンを哺乳類だと思っている人もいる」と書かれていて、いつもドキッとさせられます。
今回のご著書は、3つの視点から、その視野をさらに大きく拡張してまとめられています。第一は、「海鳥研究」あるいは「海鳥学」の視点。海鳥研究の最新の成果を俯瞰し、その全体像と現況を括っています。第二は、「地球環境」あるいは「気候変動」の視点から、海鳥や海洋生物の現況を紹介しています。第三は、「人間活動」あるいは「人間生活」の視点から、第一・第二との関係や将来予測にも言及しています。『海鳥と地球と人間』というタイトルは、まさにこの基本的構成を意味しているのです。
ということは、「あとがき」で先生が吐露された苦悩、「自分自身の業績だけでなくほかの研究者の業績をも活用する」は、許されて当然の手法だと言えるでしょう。換言すれば、海鳥研究を俯瞰し地球環境に言及し人間活動の未來を語るためには、既存の枠組みを超える必要があり、超えていかなければならないのです。
私自身の、ペンギン保全に関わるささやかな経験から考えても、「ペンギン研究と保全」を小さく限定的な枠組みで理解し対応していくことは、ほとんど不可能な状況になっていると思います。現在の海洋生物や海洋環境に関する現状認識と諸問題への取組みは、地球環境全体や人間活動全体との密接なつながりの中で考えていかなければならないところまできているのです。
綿貫先生の新著は、そういう課題をどのように理解し改善・解決への道筋を模索していくのか?より多くの人々と語り合い工夫を重ねていく上で、極めて貴重な羅針盤であると言えるでしょう。
ぜひ、多くの方々に読んでいただきたい基礎文献です。