南米マゼランペンギン救護活動の現状〜その3〜「お金」の問題=「マリンピアクラブの募金活動」にご協力いただいた皆様へのご報告と共に

2010 年 11 月 9 日 火曜日

保全活動には、当たり前だが「お金」がかかる。

反捕鯨活動など過激なパフォーマンスで世界中から顰蹙を買うことが多い「あの団体」など、年間数億円以上もの資金を動かしているらしい。
だからこそ、ああいう馬鹿げた犯罪行為を伴うパフォーマンスが必要になる。
そのパフォーマンスが激しければ激しいほど、世界中のマスコミの「注目度」があがり、いわゆる「露出度」があがる。

この「注目度」と「露出度」は、不思議なことに寄付金額と「正の相関」を持つらしい。
私がいつも疑問に思うのは、そういう「違法行為」を意に介さない(=確信犯であり)、卑劣で非常識な団体に、どうして巨額の資金提供を続ける人々が絶えないのか?
そして、その団体の幹部達は、その資金で生活しているらしい。

彼らの金銭感覚は、おそらく「普通に(法律を守り主要な収入を保全活動以外で得ながら)保全活動」をしている世界中の真面目な方々の感覚からは、かなりかけ離れているに違いない。
つまり、彼らが保全活動を続けるのは、本当に野生動物を守るためではないのではないか?

「犯罪行為を含む活動」を自分の「仕事(=主な収入源)」として維持するために「保全」という衣を被っているに過ぎない。そういう気がする。

私がやりきれないのは、そのような団体が複数存在し、毎年巨額の資金を動かしているにもかかわらず、野生動物の保全活動が目覚ましい成果を上げて、地球環境が明らかに改善されている。
そんなことが口が裂けても言えない状況だということだ。

実は、成功しつつある活動も決して少なくない。
だが、その多くは、地域の人々の理解と協力のもと、決して潤沢ではない資金を、賢く、効率的に運用している場合に多いということ。

結局、資金=「お金」が活きるか活きないかは、その「金額の大小」やパフォーマンスの派手さにあるのではなく、それを如何に効率的(内容・タイミング共に)に遣っていくか。その点にかかっていると思う。

かつて、私の「ペンギン学」の師匠、青柳昌宏先生はこんな例も教えて下さった。
「会員サービスって、意外にお金と人手がかかるんですよ。立派な会報を定期的に発行することに夢中になるあまり、肝心の活動が痩せてしまって、結局は行き詰まり解散してしまった団体がたくさんあるんですよ。注意しないとね!」

一番大事なことは何か?どこに最も力を注がなければならないのか?
その方向性、選択や舵取りを誤ると、本末転倒、崩壊の途へと進むことになる。
だから、支援する相手と直に会って実情をリアルに把握し、決して多額ではないが貴重な資金を如何に遣うかを慎重に考える「工程」が不可欠なのだ。

さて、アルゼンチンとウルグアイのお話をしましょう。

まず、アルゼンチンのムンドマリーノ。
1979年に設立され、その後「総合リゾート」として運営されてきたこの「アニマルランド(いわゆる動物園にも水族館にも属さない両方の性格をもつ施設です)」では、主にイワトビペンギンとマゼランペンギンが救護され、その中で繁殖してきた個体群が飼育・展示されています。

アルゼンチンのムンドマリーノ1 アルゼンチンのムンドマリーノ2 アルゼンチンのムンドマリーノ3 アルゼンチンのムンドマリーノ4

施設への入場料の一部や寄付金をもとに、「ムンドマリーノ基金」が設けられ、保全活動を支えています。
ですから、この施設の場合は、さしあたって「民間団体による小規模な資金提供」は、必要ないでしょう。
日本で彼らの活動を紹介したり、あるいは国内の園館との交流を拡大することで、その手助けをしていく。そういうスタンスが適切だと思います。
もちろん、緊急事態には、また別に対応を考えるべきでしょう。

次は、ウルグアイのリチャードさんの施設です。

すでにご報告しましたが、最近の世界的な経済的混乱が、リチャードさんの施設に重い負担を強いています。
以前使っていた「三菱のピックアップ」を、餌代確保のために手放してしまったので、動物の搬送にも苦労している状態です。

他にも、こんなことがありました。
プール等の掃除にはしっかりしたデッキブラシが必要ですが、資金不足で買えません。

リチャードさんは、使いにくい掃除用具を使う重労働に耐えなければなりませんでした。
これは、ゴム長靴等と共に、近くのスーパーで購入し、寄贈しました(上田私費)。

「最近はね、大企業からの寄付金が1年で500米ドルになってしまった。これでは、餌代としても1ヶ月もたないんだよ。
それに、学生ボランティアに食事を出したり、交通費を出したりしないと、誰も来てくれないこともあるんだ。」リチャードさんはそう言うと、片目を瞑って肩をすぼめました。

「でも、これは嬉しかった!以前、マリンピアクラブからいただいた寄付金で買った湯沸し器だよ!
重油を浴びたペンギンたちを素早くきれいに洗ってやれるようになった!!ありがとう!!」

そして、今回の寄付金。今年8月8日、マリンピア松島水族館のご協力を得て、水族館内で実施したイベントと「ペンギン教室」で集まった寄付金です。
それを米ドルに両替すると「$1093」になりました。
これとは別に、「餌代にして下さい!」と言いながら$200寄付(小澤さんと上田の私費)しました。

リチャードさんからは、写真のような領収書をいただきましたので、改めてご報告致します。

施設への寄付金の領収書1 施設への寄付金の領収書2

日本での募金活動、ペンギングッズオークションにご協力下さった方々に、また、会場をご提供いただき、お忙しいところをご支援いただいたマリンピア松島水族館スタッフの皆様に深く感謝申し上げます。
さらに、長期にわたってイベントを準備し、その運営を担ったマリンピアクラブのスタッフの皆様、皆さんの情熱と誠意は、間違いなくリチャードさんと生き物たちに伝わりましたよ!!
本当にありがとうございました!!

領収書は、後日お渡ししますね(^o^)/

さて、これが全てではありません。
でも、ムンドマリーノとリチャードさんの施設の違いをご理解いただけましたでしょうか?

「お金の遣い方」には、メリハリとタイミングが大切なのです。それは、直接見て話すことによる信頼関係がないと、痒い所に手が届くという訳にはいかないのです。
私たちのような「小さな市民グループ」には「大金」はありません。しかし、人間的な結びつきを活かした、効果的な資金援助が可能なのです。

皆様の、ご理解とご協力を、今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

コメント / トラックバック 13 件

  1. むらペン より:

    そうですね、機会あるごとに思い巡らし活動する意識を自分で持って生きたいと思います。
    ありがとうございます。
    そしてよろしくお願いいたします。

  2. 上田一生 より:

    むらペン 様

    ちょっとおおげさですが、保全活動は「総合科学」だと考えています。
    生物や自然科学に関する知識や技術はもちろん、法律、経済、政治、民族、言語…等々、様々な分野の活きた知識と経験が必要です。
    そして、たくさんの「失敗」も必要です。だから、かなり長い歳月と多くの人々の経験が積み重ならないと、実質的な成果をあげることは難しいのです。
    その実例を、このブログで観察していただき、自分自身の「保全活動スタイル」を探してみて下さい。

  3. ダンチョウ より:

    リチャードさんのところに、無事、寄付金が届いたのですね。
    ひと安心です。
    また、何かあれば、ご協力したいと思います。

  4. penguinman より:

    お疲れ様です。大西洋ネッットワークはいい感じで進んでいますね。私はこれまでの活動を活かした太平洋側ネットワークを推進していきます。

  5. 斎藤美香子 より:

    先生、今回の内容もいろいろと考えさせられる大変深い内容です。ありがとうございました。

    マリンピアクラブの小さい支援でも、このように形(給湯器)になってなんらかのお役に立っているというのはウレシイです。
    上田先生!ダンチョウ!またクラブでチャリティイベントやりましょうね。

    penguinmanさん、お久しぶりです。出発までもう少しですね。なるほど大西洋ネットワークと太平洋側ネットワークですか。では私は大西洋担当になりますね(笑)。

  6. manchot より:

    反捕鯨、で、クジラの数はどうなってるんでしょうね(^^;

    寄付する側も、単に「いいことしてるつもり」なのかな?
    だから、活動内容は「クジラを獲るなー」のパフォーマンスでOK?

    痒い所に手が届く活動、支援していきたいのです。

  7. 上田一生 より:

    ダンチョウ 様、penguinman 様、斎藤美香子 様、manchot 様

    皆様、いつも温かいコメントをありがとうございますm(__)m!!

    ダンチョウ様

    マリンピアクラブのスタッフの皆様へのご報告が遅くなり、本当に申し訳ございませんでしたm(__)m!!
    リチャードさんからは「マリンピアクラブの皆様に心から感謝申し上げます!」というメッセージをいただいております(^o^)/
    ラプラタカワイルカやオタリア等のことも考えると、リチャードさんへの支援は今後も息長く継続すべきだと考えております。

    ただし、皆さんと一緒に楽しみながらいきましょう!音楽と水族館の力で「生きものを支える」、こんなに素晴らしい方法は滅多にありませんから…(^o^)v

    penguinman 様

    「太平洋側ネットワーク」の充実、本当によろしくお願い申し上げますm(__)m!!
    久しぶりの「ペンギン・エコツアー」ですね(^o^)/
    ツアーリーダーとして大変なご苦労があることと思いますが、今回の「フンボルトペンギンのためのツアー」が、充実し、実りあるものになりますことを、心からお祈りしております_(._.)_!!
    ペンギン会議全国大会での、楽しい「報告」を期待しております(^o^)/

    斎藤美香子 様

    マリンピアクラブのチャリティーイベントの際には、様々な面でお力添えいただき、本当にありがとうございましたm(__)m!!
    ダンチョウ率いる吹奏楽団と南米音楽との組み合わせは盛り上がりましたねぇ(^o^)vダンスで足がもつれそうになりましたけど…(~_~;)

    そして、また充実した「大西洋=フォークランド情報」を楽しみにしております(^o^)/
    皆さん、斎藤さんのブログにご注目下さい!そこには、フォークランドの「真実」が詳細に語られています。
    素晴らしく、愛情のこもった「ペンギン写真」と共に…(^o^)v地域に根付いた保全活動の最も重要なエッセンスがそこにあります!!
     http://www.falkland-penguin.com/ 

    manchot 様

    私も「正確なクジラの個体数と生息状況の最新データ」に大変興味があります。
    クジラもペンギンや人間と同じく「生態系の一部」です。「頭が良いか否か?」を唯一の基準にして、生きものや生態系を語ることには、常々疑問を感じています。
    かつて、ある民族を絶滅させようとしたある国の独裁者が、自らを「世界一優秀な民族」としたように、「優秀か否か?」を生きものに関する価値判断の最も重要な基準に据えることには、極めて危険な「臭い」を感じざるを得ません。

    第一、「優秀とか頭が良い」って、いったい何をもって判断するんでしょう?
    1人の教師としても、いつも悩んでいます。とても難しい「問題」です。

    私は「いま生きている生きもの=生物種は全て勝利者だという点で共通している」と考えています。
    従って、海洋生態系の中で、クジラがどのような役割を実際に果たしているのか、全体のバランスから考えて、人間はクジラとどのように付き合っていけば良いのか?
    そういうことを、科学的な説得力を伴った方法で確認しながら、保全活動を進めるべきだと思います。

  8. とり より:

    野生生物の保護に賛同したくて寄付したのに、全然違う目的(例えば先生が本文で書かれた「違法行為」などです)でお金が使われると残念極まりないですし、それならお金ではなくて違う形で貢献したい、と思っていました。

    ただ、ここで上田先生が御紹介してくださったリチャードさんの活動の場合は、現地のレポートや写真、動画を見るとすばらしい活動ですよね。こういう活動なら、惜しむことなく援助したいです!

  9. 新山 より:

    イルカショーをご覧になったお客様は、皆一様に「頭がいい」とおっしゃいます。
    でも、それは単に人間の意志が通じている様に見えるからです。
    実際には、人間の意志なんて全く通じてはいません。見ている側の、単なる思いこみです。イルカは、人間が出したサインに対し、経験に基づいて一番餌をもらえる確率の高い行動をしているだけです。

    人間は、自分の思想や行動を理解するものを「頭がいい」、そうではないものは「頭が悪い」と判断することが多いと思います。全て基準は自分です。しかし、上田さんがおっしゃるように「いま生きている生きもの=勝利者」として考えるのが、実際には正しいと思います。生物は、自分(個体)や集団(種)が生き残っていくために、長い間最適な方法を選び続けてきているはずですから、全ての生物が「頭がいい」はずです。

    また、クジラの話ですが、日本の調査捕鯨は、調査の名を借りた商業捕鯨以外の何者でもありません。水産庁のホームページを見ると、昨年だけで、南氷洋でミンククジラ506頭とナガスクジラ1頭(シーシェパードの妨害を受けた影響で大幅に減っているにもかかわらず、この数です)、釧路沖でミンククジラ59頭を捕獲しています。今年は三陸沖でミンククジラ45頭、釧路沖でミンククジラ60頭を捕獲しています。目的は個体数、食性、性成熟組成、栄養状態などの調査ですが、本来一番になされるべき個体数調査ならば、捕獲しなくともできるはずです。
    ここまで書くと、私がクジラ愛好家と思われるかもしれませんが、全然そんなことはありません。持続可能な利用ができる量でしたら捕獲して売ってもかまわないと思っている方なのですが、いまの日本のやり方だと国際的に認められないのは明らかです。
    しかし、どうしてクジラは特別なのでしょうか。牛や豚やニワトリだってあんなに大量に殺されているのに。家畜だからいいとでもいうのでしょうか。家畜だから余ったら捨てても平気なのでしょうか。同じ命なのに。

  10. ペンギン大好き女子中学生&ペンギン中学生の母 より:

    私も、今回のCOP10で、いろいろな考え方の人たちから野生動物の保護について話を聞きました。
    そこで、いただいた資料に中に、「マグロ漁業の混獲」についての書いたものがありました。混獲により、海鳥やサメがかかってしまうことがあるそうです。針を外して、様子を見た後回復しなければ、海に戻してしまうそうです。混獲を防ぐ有効手段も、「コストがかかる」ということで、なかなか実行されない、とのことです。ちょっと動物が不公平な気も・・・。

    私は、上田先生のマゼランペンギンのブログを見て、食事はいらないから、ペンギンの保護を手伝いたい!!と思います。
    (色気より食い気なのに大丈夫か・・・?母のつぶやき)(ばれたか)

  11. 上田一生 より:

    とり 様、新山 様、ペンギン大好き女子中学生&ペンギン中学生の母 様

    皆様、真摯なご意見を、ありがとうございます!

    とり 様
    ご援助のお申し出、本当にありがとうございますm(__)m!!
    間もなく「ピキくんの里親募集」を開始致しますので、その節は何卒よろしくお願い申し上げますm(__)m!!

    新山 様
    そうですね!我々日本人も、もう一度「捕鯨の現状」について、自分達の認識をアップデートし直して、「日本人とクジラの新しい関係」について、じっくり考える時期にきているのかも知れませんね!

    ペンギン大好き女子中学生&ペンギン中学生の母 様
    COP10ですか!?いきなりの「大舞台」ですね!
    今回の国際会議は、かろうじて「実り」を残せる会議になりましたね。地元=名古屋の方々は、さぞ気をもんでいらっしゃったことでしょう。

    生きものへの人間の関心は、極めて身勝手なものです。
    それは、新山さんが、何回も怒っていらっしゃるように、「食べる」あるいは、人間にとってすぐに「資源になる生きもの」とそうでないものとを、えげつないほど明確に「選別」して考え、態度を変えるからです。
    これが、人間という生きものの特徴の1つであり、ある意味「短所」、ある意味「長所」でもあるところでしょう。
    しかし、人間が己のいわば「本能」に任せてやってきた「常識」が問われる時代になってきたのです。

    今や、限られた地球の中で、「本能のままに」振る舞うことは、あまりにリスキーです。
    いやいやまだまだ…とお考えの方も多いかもしれません。でも、いったい何を根拠に「ダイジョブだぁ〜」と言えるんでしょうか?今まで大丈夫だったから?

    ウ〜ン…私はそこまで楽観的になれないんですよねぇ〜(~_~;)

  12. 新山 より:

    すみません、あんまり怒っていません。
    人間は、今まで生物を好きなように利用して生きてきたのですから、生物利用の現状は仕方がないことだと思います。
    ただ、上田さんがおっしゃるように、今後も「本能のままに」振る舞うことはとても危険な気がします。生物資源には限りがあり、失ってしまうと、回復するには気の遠くなるような長い年月が必要だったり、最悪の場合は永遠に取り戻せないようになったりしてしまいます。
    人間は「理性」のある唯一の生きものだそうですから、そろそろその「理性」を発揮しなければいけない時期が来たのではないかと思います。まあ、「理性」が人間だけにあるという考え方も、人間が考えたことなので、決して正しいとは限りませんが・・・。
    生物は、全て利己的な存在だと思います。ただし、人間だけが他への影響力が大きいという点で、ざまざまな配慮をして生活しないといけないという義務を負う必要が生じると考えられます。他の生物の大多数が滅んでしまっては、人間は生きていけないのです。
    でも、今の便利な生活はそう簡単には捨てられない。不便な生活には戻れない。難しい問題ですね。

  13. 上田一生 より:

    新山 様

    いつも真剣なご意見、本当にありがとうございますm(__)m!!

    歴史は繰り返しませんから、私たちが出会う「問題」はいつも「前例がない問題」だと考えております。
    人間の知恵が試されているのだ、とも思います。工夫を重ねていくしかないでしょうね。

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