9月末ころだったと思いますが、新聞にこんな広告が載っていました。新国立劇場で「ビントレーのペンギン・カフェ」が上演される、というのです。
広告の写真には「踊るペンギン」ではなく「カンガルーネズミ」が使われていたため、たぶん、私の印象に強く残らなかったんでしょう。
以前からバレエの『ペンギン・カフェ』には興味があり、一度は観ておかないと…、とは思っていたのですが。なにしろ今年の9月から10月にかけては、体調を崩したり忙しかったりで、すっかり忘れていたのです(~_~;)
11月5日の新聞記事=『ペンギン・カフェ』の舞台評を、妻から「ホイッ」と渡されて、初めて「しまったあ〜!」と叫んだんです。
公演は、10月27日から11月3日までの合計6回。ついに一度も「新国立劇場」には行けませんでした。
今回、新国立劇場で『ペンギン・カフェ』が上演されたのは、おそらくデビット・ビントレーが新国立劇場バレエ団の芸術監督に就任したから。
今回の公演が、ビントレーにとって、日本での「初仕事」でした。そのスタートを、彼は1988年に作った『ペンギン・カフェ』で飾ろうとしたのでしょう。
『ペンギン・カフェ』は、既によく知られているように、イギリスのサイモン・ジェフスが編成した「ペンギン・カフェ・オーケストラ」の「レコードジャケット」にビントレーが触発されたため。いいですか?「レコード」ですよ!「CD」じゃなくて!!
ビントレーは、最初は音楽ではなく、エミリー・ヤングが描いた、一種幻想的な「ペンギングルミの頭を被った女性が椅子に腰かけている」イラストに惹き付けられた、というのです。
その後、ビントレーは『ペンギン・カフェ・オーケストラ』の中から8つの楽曲を選び、独創的でメッセージ性の高い約40分間のバレエ作品=『ペンギン・カフェ』を完成したのです。
ビントレーが『ペンギン・カフェ』を作った1988年は、地球環境問題、特に「ペンギン保全」に関心を持つ者には、決して忘れられない「始まりの年」です。
地球温暖化や「資源の継続可能な利用」等の概念、問題提起が世界的な注目を集め、各地で「国際会議」が開催されて、野生動物の保全に関するグローバルな活動が本格化したのは、この年です。
私も参加したあの「第1回国際ペンギン会議」が開催されたのは、まさにこの1988年だったのです。
『ペンギン・カフェ』に登場するのは、様々な「絶滅した」あるいは「絶滅が危惧される」動物たち。
しかし、ビントレーは決してバレエで「お説教」しようと考えたのではありません。
「これはあくまでもエンターテイメント。だから楽しんで欲しい!」
1989年に収録された「イギリスロイヤル・バレエ団による『ペンギン・カフェ』のDVD」の映像を見れば、それがわかります。
第1場に登場する「ペンギン」は、女性が演じます。カフェのウェイターであるペンギンは、カクテルを運びながら楽しげに踊る。その姿からは、「悲壮感」や「押しつけがましさ」は全くありません。
つまり、ビントレーは、あのレコードジャケットのペンギンイメージを、ここで見事に昇華して見せてくれたのです。
1988年という「時代の空気」。そこにペンギンが刻印されているという事実。
私にとって、『ペンギン・カフェ』というバレエ作品は、とてもとても、大きな意味を持っているのです!
でも、それはそれとして…、あの「ペンギングルミの頭」って、バレエには向かない気がします。あれを被って踊る、バレリーナは、ほんとに凄い!!