3月24日、トピックスとして、トリスタン・ダ・クーニャ諸島で貨物船「オリバ号」が座礁し、流出した燃料用重油を浴びた多数のキタイワトビペンギンが瀕死の状態にある、という至急報をお伝え致しました。
その後、神戸大学での「ペンギン会議」では、YouTubeで公開されている現地映像をご紹介しながら、追加情報を簡単にお伝え致しました。
ここでは、今回の一連の出来事を、過去の類例(重油流出による海鳥救護活動)の名称にならい「オリバ号事件」と総称することに致します。
なお、過去の類例=「アポロシー号事件」(1994年)、「トレジャー号事件」(2000年)の詳細につきましては、拙著=『ペンギン救出大作戦』をご参照下さい!
その巻末に、「重油流出に伴う海鳥救護活動の概略」をまとめてあります。
さて、ここでは、「オリバ号事件」の細かい経過を報告する場となっている下記のサイトからの情報を基本に据えて、いくつかの関連情報や基礎的な知識を付加しながら、「オリバ号事件」の経過と特徴について分析していきたいと思います。
今のところ、ペンギン会議では、また、上田個人としても、昨今の国内情勢を勘案して、今回の「オリバ号事件」に伴う救護活動にあたっている諸団体に対する何らかの支援活動は、不本意ながら考えておりません。
以前の、「アポロシー号事件」と「トレジャー号事件」の際には、国内で募金活動を行うと共に、前者では上田自身が、後者では湯沢満氏を現地=南アフリカに派遣して、義援金を贈呈し、実際に救護活動にあたりました。
今回も、今後の展開によっては、また皆様にご協力をお願いすることになると存じますが、その節は、何卒よろしくお願い申し上げます!
さて、第1回の今日は、まず事件の舞台となっているトリスタン・ダ・クーニャ諸島の概要と、事件の「第1フェーズ」について概観していきたいと思います。
なお、事件の詳細につきましては、以下のサイト(英文ですが映像や地図も多数ありますのでご参照下さい)をご覧下さい。
◇トリスタン・ダ・クーニャ諸島は、南大西洋のほぼ中央に位置する絶海の孤島(イギリス領)です。位置は、37°15′S、12°30′Wを中心とする海域。
主島のトリスタン島、ナイティンゲール島(一番南に位置する)、インアクセスブル島(2004年世界自然遺産に指定される)、ゴフ島の4島が中心となって構成されています。
諸島には、約250人の住民が生活していますが、飛行場は皆無。従って、どんなに近い港(南米やアフリカ)からも、片道最短4日間の船旅が必要です。
今回も、主に南アフリカのケープタウン港から救護活動の船舶が発進していますが、最大20ノットで航海しても、トリスタン島に着くのには、片道でまるまる6日間を要しています。
しかも、現場海域はかなりの悪天候で荒れているため、救護活動船で現場に向かうには、かなりの海上経験が必要だと考えられます。
また、今回の被害の中心となっているナイティンゲール島には、利用できる真水が少ないため、ペンギン等を洗ったりするには、船上か他の島の施設を利用するしかありません。
いずれにしても、非常に厳しい救護活動条件であることは明らかです。
ちなみに、上田自身も、こんなに厳しい条件下での救護活動経験はありません。
◇「オリバ号事件」第1フェイズ経過〜その1〜
3月16日04:30頃=ナイティンゲール島沿岸の岩礁(スピナー岬)に、オリバ号座礁。オリバ号は、2009年マルタ船籍、排水量75300トン、全長225メートルの貨物船。
リオ・デ・ジャネイロからシンガポールに、大豆65266トンを積載して航行中だった。
また、オリバ号には、燃料用のB重油約1500トンが積載されていた。
3月17日:南アフリカのサルベージ船=「ジョン・ロス号」(2914トン)が現場に急行し、オリバ号の乗組員22名を全員無事に救出。
3月18日:オリバ号は完全に沈没。燃料用のB重油が流出し始める。この時、ナイティンゲール島の2つのコロニーには、キタイワトビペンギンが25000つがい。
また、付近のアレックス島とミドル島には、合計70000つがいが生息していた。
(以下次回)