3月8日(木)の「朝日川柳」(朝日新聞)です。いわく…、
たしかに、時事性のあるお題です。また、ペンギンは本来、野生動物だから、その「ふるさとの海に帰った」のだ…、と考えるのが普通かもしれません。
昔から「動物園や水族館で飼育されている生き物は、全て野生の生息地から無理やり連れてこられたのだから、みんな野生に戻りたがっている」…と考えられ、そう主張する人々が数多くいました。たしかに、昔は、その考え方はかなり当たっているところもありました。園館で飼育されていた動物のほとんどが、いわゆる「野生由来(野生地から直接連れてこられた)」の個体だったからです。
しかし、今では、かなり事情が変わってきています。たしかに、まだ「野生由来個体」が皆無ではありません。しかし、ペンギンに関していえば、特に日本国内の飼育下個体群は、そのほとんどが「野生由来」ではなく、飼育下で累代繁殖した個体なのです。つまり、日本のペンギンたちは、日本の園館生まれの園館育ちが大部分なのです!!
だから、「自然の海」を知らずに、園館で一生を終えるペンギンもたくさんいるのです。一例をあげましょう。
長崎ペンギン水族館の「ふれあいペンギンビーチ」は有名ですね。あの橘湾で泳いでいるフンボルトペンギンたちは、全て日本の園館で繁殖した個体なんです。「長崎生まれ長崎育ち」の個体がほとんどです!!だから、最初に橘湾で泳がせるまでには、かなりの「訓練」が必要だったのです。
今では考えられませんが、よく「カゴの鳥がかわいそうだから放してあげる」…というようなことがもてはやされたことがあります。しかし、無理やり捕まえられた野鳥ならばいざ知らず、最初から人工的に繁殖させて人間が育てた「飼い鳥」をカゴから放すのは、むしろ「犯罪」です。「動物虐待」です。放される鳥にとっては、恐ろしい未知の世界に、人間の気まぐれや感傷や思い込みで、突然追放されるのと同じことなのです!!
さて、この川柳のお題になったペンギンも、日本の水族館で生まれ育った個体です。もちろん、東京湾も自然の海も、ましてや故郷の遠い遠い南半球、南米の太平洋の荒海など、全く知りもしません。しかも、まだ経験不足の若鳥とのこと。
たぶん、たまたま迷い出てしまった見知らぬ世界に戸惑い、仲間を求めて(ペンギンは群で生活する生き物です)、不安な日々を過ごしているでしょう。
彼(または彼女)は、一刻も早く、自分が生まれたペンギンプールに帰りたいと、熱望していることでしょう。