動物園や水族館の主役は、もちろん生きものたちだ。そこで飼育・展示されている生物がいかにイキイキしているか?それが最大のポイント!!
だから、敷地面積の大小だとか、年間利用者数だとかは、基本的には園館の良し悪しを決定する最大かつ最重要のファクターではないと考えている。とかく、数だけが一人歩きして、「日本一の…」という表現が跳梁跋扈するが、いつから「質の問題」が棚上げされたのだろう?「質が良いから数が集まる」あるいは「質は自ずから数に現れる」という考え方もある。しかし、園館の場合、本当にそういう単純・無批判な理屈が通用するのだろうか?
マスコミに誘導された「営業的・経営的評価」だけで、生き物に関する施設の価値を云々すべきではない。園館の多面的な価値をはかるには、第三者機関による詳しく専門的な調査・査定の過程が必要不可欠だと思う。そういう「複数の物差し」による吟味を経てこそ、初めて各々の施設を総合的に評価したといえるのではないだろうか?
最初から小難しい理屈をこねてしまったが、要は「人気があるから良い」という短絡的評価に頼らず、自分のこだわりをもって園館を見ていきたい、ということなのだ。今回の視点「サイン、解説板」にも、私はこだわっている。
ある園館専門家は「サインや解説板などは千人に1人くらいしか見ないんだから大して重要な問題ではない」という。つまり、サインや解説板は園館の良し悪しには無関係だというのだ。本当にそうだろうか?
いわゆる「一見さん」、単なる観光地として初めてその施設を訪れ、後は一生他の施設を訪れないという人は、確かにそうかもしれない。そういう人は、そもそも生き物にも園館にも関心がないのだ。単純に「今、人気の観光スポット」だから訪ねてみた、というに過ぎない。そういう人達にはサインや解説板などなんの価値もなかろう。
しかし、最初は無関心だったが、やがて少し関心が出てきて、同じ施設を何回も訪ねたり、違う施設を巡るようになると、まず間違いなくサインや解説板に目をとめるようになる。つまり、リピーターは観察行動にゆとりが出てくるから、それまで眼中になかったものにも目を向けるようになるのだ。
これは、私自身の実体験でもあり、私の知る大多数の「園館ファン」の現実でもある。言い方を変えると、一見さん以外は「常に新しい情報、より詳しい情報」に飢えている。そういう付加価値を求めているのだ。
その時、まず目に入るのは、飼育担当者の動きとあちこちにあるサインだろう。
お待たせ致しました。では、ペンギンビーチにはどんなサインが待っていてくれるのか?まずは門柱から。こんなゲートが迎えてくれる。スパンコールがつけられた単純なつくりだが、踊っているようなペンギンのイラストが楽しい。
また、施設内の2ヵ所に、こんな写真ボードが設置されている。ペンギンビーチで飼育されている4種類のペンギン=フンボルト、ケープ、マカロニ、イワトビの「実物大カラー写真」と、ナゼか防寒服に身を固めクリップボードをもった人間が立っている。ペンギンは正確には「実物大」ではなく、ちょっと大きめだし、フンボルト等の温帯ペンギンには似つかわしくない防寒服人間が不思議だ。
まあ、おそらくは、記念撮影用のボードだと思うが、ヒョッとすると、「スポット解説の道具」としても使われるのかもしれない。ちなみに…、「防寒服人間の謎」については、次回解明していきたい。
また、観察ルートにある擬岩には、様々な情報を書き込んだクリップボード状の解説板が取りつけられている。
お馴染み「禁止(または警告)サイン」は、こんな具合。たぶん、ペンギン生息地にあるサインの雰囲気を出したいのだと思う。クリップボードの解説板という演出も、たぶん狙いは同じだ。
次は、ナゼかオウム・インコの解説板が登場する。しかし、こういう解説板は、歴史のあるロンドン動物園ならでは、と言っていい。つまり、ペンギンビーチは、1869年に造られ長年親しまれてきた「パロットハウス」跡に新設されたものだ、という施設の由来を示している。動物園当局は、「パロットハウス」が、その施設の面影を保存し顕彰していくに足る「歴史的建造物」だと考えている。そういう認識や文化財に対する設置者の「哲学」が、明確なメッセージとして来園者に示されているのだ。ちなみに、この解説板は前回ご紹介した木製見学スタンドの最上部にある。
そして、このペンギンビーチそのものの「記念銘板」はご覧の通り、ペンギン型。2011年5月26日という日付は、こうしてロンドン動物園の新たな歴史のひとこまとなっていく。
最後に、クリップボード形式以外に、いろいろな所に取りつけられている「ノート型解説書(もちろん防水加工済)」をご覧下さい。最近は、といってももう10年以上前からになるが、「手書き解説の良さ」が再認識され、各地の園館でユニークな事例がたくさん見られるようになった。絵やイラストを自作するのは当たり前、中には切り絵やポップアップ絵本のような凝った作りのものも出現し人気を呼んでいる。
そういうレベルから見ると、まあ、この程度は普通かな?という気はする。しかし、書かれている内容は、最新かつかなり詳細な現地=生息地情報がふんだんにちりばめられたもの。実際に生息地に行ったことがないと書けない。そういう、リアリティーに溢れ科学的にも正確な記述である。
スタッフに聞いてみると…、「そう!南米や南アフリカ、亜南極のフィールドには、我々スタッフが交代で出かけてるよ!」だそうだ。もちろん、専門の研究者も同行して、研究・保全活動を継続しているとのこと。
つまり…、サインや解説には、スタッフの力量はもちろん、その動物園・水族館の基本姿勢=哲学が、如実に反映され現れている、ということだ。園館サイドも利用者も、これを疎かにする時代は過去のものだ、そういう認識を新たにしなければならないだろう。
さて、次回は、ナゼかペンギンビーチには「南極基地」があるんです!その実体と、狙い、また教育活動についてご紹介していきましょう。